大阪地方裁判所 平成8年(ワ)12109号 判決
原告
船井電機株式会社
右代表者代表取締役
船井哲良
右訴訟代理人弁護士
石川正
同
上田裕康
同
平野惠稔
同
田中信隆
同
畑郁夫
右補佐人弁理士
河野登夫
被告
エムケー精工株式会社
右代表者代表取締役
丸山永樹
右訴訟代理人弁護士
柏木薫
同
松浦康治
右補佐人弁理士
竹本松司
同
湯田浩一
主文
一 被告は、別紙物件目録1、同目録2―(1)、同目録2―(2)、同目録3―(1)、同目録4ないし6、同目録7―(1)及び同目録8記載の製パン器を、日本国内で販売するために製造し、輸入し、日本国内向けに販売してはならない。
二 被告は、別紙物件目録2―(1)、同目録4ないし6、同目録7―(1)及び同目録8記載の製パン器及び半製品を廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金六六三五万五二七一円及び内金七七一万二二八四円に対しては平成八年一二月六日から、内金一八二一万八〇七一円に対しては平成九年三月三一日から、内金一二七六万七七六三円に対しては平成一〇年三月三一日から、内金一四五三万三九七六円に対しては平成一一年三月三一日から、内金一三一二万三一七七円に対しては平成一二年三月三一日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
六 この判決は、三項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
事実及び理由は、別紙事実及び理由記載のとおりである。
(裁判長裁判官・小松一雄、裁判官・高松宏之、裁判官・安永武央)
別紙事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙物件目録1ないし8及び同目録A記載の製パン器を製造し、販売し、輸入してはならない。
2 被告は、前項記載の各製パン器及びその半製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金二億二八〇〇万円及びこれに対する平成八年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、原告が、自己の有する特許権及び実用新案権に基づき、別紙物件目録1ないし8及び同目録A記載の製パン器(以下、各目録の表題部の記載に従い「イ号物件」などといい、各権利の侵害性が問われる物件をまとめて「権利1の対象被告物件」などということがある。)を製造、販売している被告に対し、同物件の製造、販売の差止め等と損害賠償(実施料相当額)を求めている事案である。
以下、各権利ごとに事案の概要、争点に関する当事者の主張、及び争点に対する判断を示すこととする(ただし、損害額に関しては、各権利すべてに関して最後にまとめて、争点に対する当事者の主張と裁判所の判断を示す)。
第3 権利1に係る請求について
【争いのない事実等】
1 原告は、次の特許権(以下「権利1」という。)を有している。
発明の名称 製パン器
出願日 昭和六二年二月二〇日
(特願平六―三七九六七号)
分割の表示 特願昭六二―三八八一二号の分割
公告日 平成七年九月二〇日
(特公平七―八五七三〇号)
登録日 平成九年九月五日
特許番号 特許第二一三一九三二号
2 権利1の特許出願の願書に添付された明細書(以下「権利1明細書」という。)の特許請求の範囲は次のとおりである(以下、請求項1に係る発明を「発明1(1)」といい、請求項2に係る発明を「発明1(2)」という。)。
(1) 請求項1
材料容器内にイースト、各種材料及び水を入れ、混ねつ及び発酵等の工程を自動化した製パン器において、前記材料容器をイースト、各種材料及び水のすべてを収納する一つだけとし、材料容器内に入れた材料の温度を検出する手段を備えず、前記工程の開始時刻をタイマーで制御できるようにしたことを特徴とする製パン器。
(2) 請求項2
底部に混ねつ用回転羽根が取り付けられ、パンの材料、イースト菌、水を入れる単一のパン容器と、該パン容器を加熱するヒータを備えたオーブンと、上記混ねつ用回転羽根を駆動するモータとを具備して、混ねつ、発酵、焼き上げの製パン工程を行う製パン器において、タイマーを具備し、材料容器内に入れたパンの材料の温度を検出する手段を具備せず、タイマーによって設定された製パン工程の開始まで、イースト菌または水を上記パン容器から隔離して保管する手段を具備しないことを特徴とする製パン器。
3 原告は、イ号物件、ロ(1)号物件、ハ(1)号物件、ニ号物件、ホ号物件、へ号物件、ト(1)号物件、チ号物件は、発明1(1)及び同(2)の技術的範囲に属すると主張する。
【争点】
1 権利1の対象被告物件は、発明1(1)及び同(2)の技術的範囲に属するか。
2 権利1に基づく請求は権利濫用か。
【争点に関する当事者の主張】
1 争点1について
(原告の主張)
(1) 権利1の対象被告物件は、発明1(1)及び同(2)の構成をすべて具備するものである。
(2) 被告は、権利1の特許出願に対する異議申立てに対する原告の主張を理由に、権利1の対象被告物件が、発明1の技術的範囲に属することを争っているが、被告は、異議申立てに対する原告の主張を誤解している。
また、権利1は物の特許であるから、被告による製造販売時点において、権利1の対象被告物件が、発明1の技術的範囲に属する物である以上、その後、使用者がどのように材料を入れるかによって、侵害性が否定されるものではない。
(3) 被告は、権利1の対象被告物件に水を量る計量カップが付属していることを理由に、同物件が、発明1(1)及び同(2)の技術的範囲に属することを争っているが、水を量る計量カップは、「材料容器」又は「パン容器」に該当しないから、被告の主張は失当である。
(被告の主張)
(1) 権利1の特許出願に対する異議申立てに対して、原告が、実願昭六二―六六〇七号実用新案登録出願に係る考案(実開昭六三―一一四二五六号)との比較に関して、主張した内容からすれば、小麦粉の山の頂部の凹部をイースト菌容器とし、一時的材料容器を製パンの都度作成するものは、発明1(1)及び同(2)の技術的範囲に属さないというべきである。
しかるに、権利1の対象被告物件では、タイマー使用時におけるイースト菌の保管は、パンケースにまず水を入れた後、小麦粉等のイースト菌以外の材料を入れ、この材料の中央に小さな窪みを設け、イースト菌をこの窪みに入れ、タイマーでセットした混練開始時間までの間、この状態が保持されるのであるから、発明1(1)及び同(2)の技術的範囲に属さない。
(2) 権利1の対象被告物件には、水を量る計量カップが付属しているから、発明1(1)の「前記材料容器をイースト、各種材料及び水のすべてを収納する一つだけとし」との構成、及び、発明1(2)の「パンの材料、イースト菌、水を入れる単一のパン容器」との構成を具備しない。
2 争点2(権利濫用)について
(被告の主張)
権利1の特許登録には、以下に述べるように、明白な無効理由があり、権利1に基づく請求は権利濫用である。
(1) 特許法第三六条四項違反
権利1の発明は、水、イースト菌及びパン材料の特別な配置方法なくしては成り立たない技術である。それにもかかわらず、特許請求の範囲にはこれが記載されていないのであるから、権利1の発明は、特許法三六条四項の要件を満たさず、無効であることが明白である。
(2) 特許法二九条の二違反
原告は、出願公告後に平成八年八月一九日付手続補正によって、権利1の出願公告時の明細書に記載された特許請求の範囲請求項1及び2に、それぞれ、「材料容器内に入れた材料の温度を検出する手段を備えず」という構成を追加した。
しかし、この「材料容器内に入れた材料の温度を検出する手段を備えず」という構成は、権利1の発明が解決しようとする課題や発明の効果とは全く関係のない構成であり、出願時の明細書や図面において何ら示唆されていない技術事項を追加するものであるから、補正の要件を欠くものである。したがって、権利1は、出願公告後の補正がされなかった特許出願について特許がされたものとみなされ、権利1の明細書は上記補正のないものとなる。
そうすると、権利1は、請求項1及び2のいずれの発明も、権利1の拡大先願に該当する実願昭六一―一二一七二七号実用新案登録出願(考案の名称「自動製パン機」。以下「権利1先願」という。)の明細書に記載された考案と同一の発明であるから、特許法二九条の二に違反し、無効であることが明白である。
(3) 特許法二九条一項三号違反
発明1(1)及び同(2)は、いずれも、権利1の特許出願当時公知であった、特開昭六二―五三一四号公開特許公報に従来技術として開示されている技術及び特開昭五六―三〇二八号公開特許公報に開示された技術と同一の構成を有するから、特許法二九条一項三号に違反し、無効であることが明白である。
(原告の主張)
(1) 特許法三六条四項違反について
権利1は既に専門的知識経験を有する特許庁の審判官によって、特許査定されたものであり、以後の無効審判の手続の中でも、特許庁が、権利1を特許法三六条四項の要件を満たさないことを理由として無効であると判断したことは一度もないのであるから、明白な無効理由があるということはできない。
(2) 特許法二九条の二違反について
材料容器内に入れた材料の温度を検出する手段を備えていないことは、権利1の出願公告時の明細書に間接的に記載されており、権利1の効果である製パン器の構造を複雑なものにしないということと密接な関わりを持っているものであるから、出願公告後の補正は、何ら特許請求の範囲を変更したものではない。
したがって、権利1の特許請求の範囲は、出願公告後の補正に基づくものであり、そうである以上、権利1の特許登録は、特許法二九条の二に違反するものではない。
(3) 特許法二九条一項三号違反について
(1)と同旨。
【争点に対する判断】
1 争点2(権利濫用)について
(1) 特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特許登録に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができると解すべきであり、審理の結果、当該特許登録に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷平成一二年四月一一日判決・民集五四巻四号一三六八頁)。
(2) 旧特許法三六条四項違反について
ア 権利1の特許出願時に施行されていた昭和六二年法律第二七号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。昭和六二年法律第二七号附則三条一項参照。)三六条四項本文は、「第二項第四号の特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない。」と定めていた。そして、同号違反は、同法一二三条一項三号により無効理由とされていた。
イ 権利1明細書(甲1)によれば、権利1に係る発明は、いずれも、従来、タイマー機構を具備する製パン器においては、イースト菌が混ねつの開始前に水と作用して発酵力を喪失することを防止するために、水タンクを設けるかイースト菌収納箱を設けてイースト菌及びパン材料から水を隔離しておき、製パン工程の開始後にそれらを加え合わせる動作を行っていたため、製パン器の構造が複雑となり、その制御回路も複雑になって故障の原因が増加し、また、コストアップになる等の不都合な点があったので、そのような問題点を解決することを目的とし、「この発明の製パン器によると、小麦粉を主成分とするパンの材料およびイースト菌を容器に入れ、水を注入しておいても攪拌や混ねつしない限り、イースト菌が混ねつの前に水と作用して発酵したりしないので、水タンクまたはイースト菌収納箱を別に設けて混ねつ開始時に操作する必要がないので、製パン器の構成が簡単になって、故障の原因を減らすことができる。そしてパン容器内のパンの材料の温度を検出する手段を有しておらず、この点でも構成が簡単となり、それにより故障を低減できる。更にこれらにより装置を廉価にすることができる。」(権利1明細書の発明の効果欄)との効果を奏する発明であると認められる。
したがって、権利1に係る発明が、上記従来技術の問題点を解決し、上記の効果を奏する発明といえるためには、当然、イースト菌が混ねつの開始前に水と作用して発酵力を喪失することを防止するための構成が、特許請求の範囲に記載されていなければならないと解される。
そして、このための構成について、権利1明細書の発明の詳細な説明においては、①イースト菌、パン材料、温水の順に、これらをパン容器に投入すること、②温水、パン材料、イースト菌の順に、これらをパン容器に投入すること、又は③イースト菌とパン材料を混合したもの、温水の順に、これらをパン容器に投入することにより、イースト菌が混ねつの開始前に水と作用して発酵力を喪失することを防止することが記載されていると認められる。
しかしながら、権利1の特許請求の範囲請求項1及び2には、単にパン材料、イースト菌及び水を一つのパン容器に入れるということが記載されているにすぎず、上記のような、イースト菌が混ねつの開始前に水と作用して発酵力を喪失してしまうことを防止する手段は、何ら記載されていない。
そうすると、権利1の特許請求の範囲の記載は、請求項1及び2のいずれも、発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しているとは認められず、旧特許法三六条四項に違反するものといわざるを得ない。
ウ なお、今後、原告が、特許法一二六条に基づき、特許請求の範囲に上記のような手段を追加訂正して、旧特許法三六条四項違反を回避しようとすることも考えられる。
しかし、上記のようなパン材料等の投入順序という方法は、権利1に係る発明が対象とする製パン器の使用者による具体的使用方法を示すものにすぎないから、そのような記載を発明の構成に追加しても、製パン器という物の構成の特定に何ら関係するものではない。したがって、そのような訂正は、同法一二六条一項に定めるいずれの訂正事由にも該当せず、許されないものと解される。
また、仮に、同法一二六条一項に定めるいずれかの訂正事由に該当するとしても、同条三項は、「第一項の明細書又は図面の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない。」と定めているところ、製パン器自体を発明の対象とする権利の構成に、上記のようなパン材料等の投入順序という方法を追加することは、特許請求の範囲の記載に発明の対象を追加することになり、実質上特許請求の範囲を変更するものであり、そのような訂正は許されないものと解される。
エ 以上より、旧特許法一二三条一項三号、三六条四項二号により、権利1の特許登録には、発明1(1)及び同(2)のいずれについても、明白な無効理由があると認められる。
(3) 旧特許法二九条の二違反について
ア 旧特許法二九条の二第一項本文は、特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願であって当該特許出願後に出願公告又は出願公開がされたものの願書に最初に添附した明細書又は図面に記載された発明又は考案(その発明又は考案をした者が、当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)と同一であるときは、その発明については、前条第一項の規定にかかわらず、特許を受けることができない旨定めている。
イ 権利1の出願日は、昭和六二年二月二〇日であるところ、証拠(乙16)によれば、権利1の出願日前に実用新案登録出願され、権利1の出願後に出願公開されたものとして、権利1先願が存在することが認められる(なお、発明1(1)(2)の発明者と権利1先願の考案の考案者とが同一人であるとは認められない。)。
そして、同証拠によれば、権利1先願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「権利1先願明細書」という。)には、次の記載があることが認められる。
(ア) 実用新案登録請求の範囲
パン材料を収容する材料容器と、該材料容器を収容する装置本体内に配設され前記材料容器を加熱するヒータと、前記容器内に配設されパン材料をミキシングする回転羽根と、該回転羽根を駆動する駆動手段とを備えてなる自動製パン機において、前記容器内のパン材料の温度を検出する材料温度センサーと、ミキシングを開始させる材料基準温度を設定する材料基準温度設定手段と、前記材料温度センサーにより検出される材料温度と前記材料基準温度とを比較し、材料温度が材料基準温度以上であるとき前記駆動手段を始動させる信号を出力する第一比較器と、前記材料容器を収容する装置本体内の温度を検出する庫内温度センサーと、庫内基準温度を設定する庫内基準温度設定手段と、前記庫内温度センサーにより検出される庫内温度と前記庫内基準温度とを比較し、庫内温度が庫内基準温度以下であるときのみ前記ヒータをオンさせる信号を出力する第二比較器とを備えた制御装置を有することを特徴とする自動製パン機。
(イ) 産業上の利用分野
本考案は、パン材料のミキシングから焼き上げまでの一連の工程を自動的に行う自動製パン機に関する。
(ウ) 従来の技術
ミキシング開始時のパン材料および水の温度は外気温度に左右され、しかも、イースト菌は一旦低温の水に接触すると活性が弱まって発酵工程で十分に膨らまなくなり、逆に五〇℃以上の高温に曝されると死滅するという問題がある。
従って、四季を通じて味の良いパンを製造するためには水温等の温度管理が必要となり、特に、製パン機をタイマー動作させた場合には、外気温度によって水及びパン材料の温度が変動することから、温度管理が不可欠なものとなる。
このため、例えば、実開昭六〇―一一一六七八号公報にて、材料容器内のパン材料を所定の低い温度まで冷却すると共に、水槽内の水を所定の低い温度に冷却し、冷やしたパン材料に冷却した水を注入することによってミキシング開始時の材料温度を低くし、四季を通じてミキシング時間の均一化を図り、味の良いパンを作ることができるようにした自動製パン機が提案されている。
(エ) 考案が解決しようとする問題点
a しかしながら、前記自動製パン機は、……夏季においては十分な効果をもたらすが、……冬季においては、ミキシング開始時にイースト菌が冷水に接触する恐れがある。
b しかも、パン材料を収納する容器や水槽を冷却するための補助容器が必要となるため、構造が複雑になるという問題があった。
c 従って、本考案は、外気温度の低い冬季にタイマー動作させる場合であってもイースト菌が冷水に接触することが無く、四季を通じて味の良いパンを作ることができる構造の簡単な自動製パン機を得ることを目的とする。
(オ) 作用
a 本考案に係る自動製パン機は、パン材料及び水を材料容器に入れ、その材料をミキシングした後、発酵させ、次いで焼成する工程を自動的に行うものであるが、準備段階では、まず、最初にイースト菌を材料容器に入れ、次いで該イースト菌を覆うように小麦粉その他の材料を入れ、最後に水を入れてイースト菌と水とが他のパン材料で隔離させれるようにセットする。このようにセットすると、タイマーを使用する場合のように長時間放置しておいても水とイースト菌が触れることがなく、従って、冬季にイースト菌が冷水と接触して活性を失ったり、あるいは夏季に適温の水と接触し発酵を開始して過発酵となったりすることが無く、おいしいパンづくりが可能となる。
b 前記のようにセットした後、自動製パン機を作動させると、通常、庫内温度センサーにより検出される庫内温度が庫内基準温度より低いため、第二比較器からの信号によりヒータへ通電が開始され、材料容器内の材料が加熱される。この予熱工程では、庫内温度が庫内基準温度に達すると、ヒータがオフされ、庫内温度が庫内基準温度以上に上昇するのが防止され、また、ヒータ7をオフさせた後、庫内温度が所定温度まで低下すると再びヒータへの通電が開始されるという動作が繰り返される。
材料容器が加熱されると、該材料容器内のパン材料の温度が徐々に昇温し、材料温度センサーにより検出される材料温度が材料基準温度に達すると、第一比較器からの出力信号により駆動手段が始動し、ミキシングが開始される。これにより小麦粉等がイースト菌及び水と混合されるが、パン材料の総てが所定温度にまで昇温されているため、ミキシング時にイースト菌が冷水に接触するのが防止される。
(カ) 実施例
ミキシング開始後の動作について簡単に説明すると……ミキシング開始後、所定時間、例えば一五分経過すると、……発酵工程に進み、所定時間、例えば二〇分発酵が行われる。次いで……焼成が行われる。
(キ) 考案の効果
a 本考案によれば、パン材料が冷たい場合、ミキシング開始前に材料が予熱され、その温度が一定温度に達した後にのみミキシングが開始されるため、冬季においてもミキシング時にイースト菌が冷水に接することがなく、従ってミキシング後の発酵工程での十分な発酵が保証され味の良いパンを作ることができる。
b また、水を入れておくための水槽やパン材料及び水を冷却するための補助容器を必要としないため、製パン機の構造を簡略化できる。
(ク) 第一図からは、材料容器3を加熱する庫内ヒータ7を備えた調理用チャンバ16と、容器の底部に取り付けられた回転羽根5及び回転羽根を駆動するミキシング用モータ6が把握できる。
ウ そこで、前記イ(ア)に記載した権利1先願明細書の実用新案登録請求の範囲記載に係る考案(以下「先願考案1」という。)と発明1(1)及び同(2)との同一性についてみると、先願考案1においては材料温度センサー、材料基準温度設定手段、第一比較器、庫内温度センサー、庫内基準温度設定手段及び第二比較器を具備することが要件とされているのに対し、発明1(1)及び同(2)においてはそれらが要件とされていないから、両者が発明として同一でないことは明らかである。
また、実質的にみても、先願考案1は、自動製パン機において、冷たい水とイースト菌が混ざることにより、発酵が十分行われないことを防ぐために、庫内温度センサーで製パン機内の温度を検出し、その温度が設定温度よりも低い場合には、ヒーターで材料容器内を温めるとともに、材料温度センサーで材料容器内のパン材料の温度を検出し、その温度が設定温度よりも高い場合に、材料容器内に配設されパン材料をミキシングする回転羽根を駆動させるようにしたものであり、回転羽根の駆動開始時における材料容器内の温度管理を主たる目的とし、その解決手段を開示した考案であるのに対し、発明1(1)及び(2)は、タイマー待機中にイースト菌が水と作用して発酵することを防止することを目的とする発明であって、両者はその技術思想を異にするものであると認められる。
エ しかしながら、旧特許法二九条の二は、当該発明が、先願の特許出願又は実用新案登録出願に係る明細書中の特許(実用新案登録)請求の範囲に記載された発明又は考案と同一である場合のほか、先願の明細書中のそれら以外の部分や図面に記載されているにとどまる発明又は考案と同一である場合にも適用される。そして、後者の場合に、どのような発明(考案)が独立のまとまりある発明(考案)として先願の明細書及び図面中に記載されているかは、それらの記載に接する当業者の観点から実質的に検討すべきである。
そこでこの観点から検討するに、まず、前記のとおり、先願考案1は回転羽根の駆動開始時における材料容器内の温度管理を主たる目的としているものと認められるところ、前記イ(オ)aにおいては、そのような温度管理を行う前提として、材料容器へのパン材料、水及びイースト菌を入れる順序を特定することによって、ミキシング開始までの間にイースト菌が水と作用して活性を失ったり、過発酵となることを防止することが示されており、これは、先願考案1が主たる目的とする温度管理とは別個の技術的意義を有するまとまりある考案として把握し得るものである。
そして、このようなパン材料等の入れ方を行うためには、上記イ(オ)aの記載からすれば、パン材料、水及びイースト菌を一つの材料容器に入れることは自明であり、このことから、従来技術の問題点として前記イ(エ)bの記載にあるような、補助容器が必要になるために製パン器の構造が複雑になるという問題点が解決され、前記イ(キ)bの記載にあるように、水を入れておくための水槽が不要になって製パン器の構造を簡略化できるとの効果を奏することも容易に理解し得るところである。
さらに、権利1先願は、ミキシングから焼成までの工程を自動化し、かつその開始時刻をタイマーで制御できるようにした製パン器を前提とし、それに伴う問題点を解決しようとしたものであることは、前記イ(イ)、(ウ)、(エ)の各記載から明らかである。
また、前記イ(ク)の記載からすれば、そのような製パン器の一例として、底部にミキシング用回転羽根が取り付けられ、パン容器を加熱するヒータを備えた調理用チャンバと混ねつ用回転羽根を駆動するモータを具備するものがあると理解し得るものである。
以上の検討からすれば、権利1先願明細書には、次の考案(以下「先願考案2」という。)が記載されていると認められる。
「材料容器内にイースト、各種材料及び水を入れ、ミキシング及び発酵等の工程を自動化した製パン器において、前記材料容器をイースト、各種材料及び水の全てを収納する一つだけとし、前記工程の開始時刻をタイマーで制御できるようにしたことを特徴とする製パン器。」
また、同様に、権利一先願明細書には、次の考案(以下「先願考案3」という。)が記載されていると認められる。
「底部に回転羽根が取り付けられ、パンの材料、イースト菌、水を入れる単一の材料容器と、該材料容器を加熱するヒータを備えた調理用チャンバと、上記回転羽根を駆動するミキシングモータとを具備して、ミキシング、発酵、焼成の製パン工程を行う製パン器において、タイマーを具備し、タイマーによって設定された製パン工程の開始まで、イースト菌又は水を上記パン容器から隔離して保管する手段を具備しないことを特徴とする製パン器。」
もっとも、このように先願考案2及び3を抽出するに当たっては、材料容器内に入れたパンの材料の温度を検出する手段(材料温度センサー)を具備したものを抽出すべきであるとの指摘も考えられる。しかし、前記イ(オ)bの記載からすると、権利1先願明細書における材料温度センサーは、混ねつ開始までの温度管理のために設けられているものと認められるのに対し、先願考案2及び3の技術的意義は、先に述べたとおり、タイマーを具備した自動製パン器において、単一の容器材料にパン材料、水及びイースト菌を特定の順序で入れることによって、装置構造を簡単にしつつ、混ねつ開始時までイースト菌が水と作用することを防止するという点にあると認められるから、先願考案2及び3を抽出・把握するに当たって、「材料容器内に入れた材料の温度を検出する手段」を構成要素に入れることは相当でないというべきである。
オ 以上の検討を前提に、発明1(1)と先願考案2、発明1(2)と先願考案3とを比較すると、用語の違いを除けば、発明1(1)及び同(2)には、「材料容器内に入れた材料の温度を検出する手段を備えず」という要件があるが、先願考案2及び3にはそのような要件が積極的に記載されていない点で、一応相違するものと認められる。
しかし、先に述べた先願考案2及び3の技術的意義からすれば、先願考案2及び3は、「材料容器内に入れた材料の温度を検出する手段」を具備するか否かは問わない考案とみるのが相当である。
したがって、発明1(1)及び同(2)には「材料容器内に入れた材料の温度を検出する手段を備えず」という要件があることを加味しても、発明1(1)は先願考案2に、発明1(2)は先願考案3に、それぞれ包含されているとみるべきである。
これに対しては、特に発明1(1)及び同(2)のような限定をすれば、材料温度検出手段を設けないことから構造が簡単になるとして、その独自の技術的意義を指摘する見解も考えられる。しかし、そのような効果は自明の効果であり、それは材料温度検出手段を備えないものも包含する先願考案2及び3が既に予定するところであるということができ、他に上記限定により特段の効果が生じているとみることはできないから、上記限定は格別の技術的意義を有するものではないというべきである。
そうすると、発明1(1)と先願考案2及び発明1(2)と先願考案3とは、出願公告後の平成八年八月一九日付手続補正による補正が適法であるとの前提に立っても、実質的に同一の発明ないし考案といわざるを得ない。
カ 以上より、旧特許法一二三条一項一号、二九条の二により、権利1の特許登録には、発明1(1)及び同(2)のいずれについても、明白な無効理由があると認められる。
(4) よって、原告の権利1に基づく請求は、いずれも権利濫用であって、理由がない。
第4 権利2に係る請求について
【争いのない事実等】
1 原告は次の特許権(以下「権利2」という。)を有している。
発明の名称 製パン方法
出願日 昭和六二年二月二〇日
(特願昭六二―三八八一二号)
公告日 平成七年七月一二日
(特公平七―六三四二九号)
登録日 平成九年一二月一九日
特許番号 特許第二一三三九七五号
2 権利2の特許出願の願書に添付された明細書(以下「権利2明細書」という。)の特許請求の範囲は次のとおりである(以下この特許発明を「発明2」という。)。
イースト菌と水との接触を避ける様に、水と、小麦粉、油脂などのパン材料と、イースト菌とをパン容器内にこの順に入れ、そのまま放置し、その後、タイマーにより混捏、発酵、焼き上げなどの製パン工程に移行することを特徴とする製パン方法。
3 原告は、イ号物件、ロ(1)号物件、ハ(1)号物件、ニ号物件、ホ号物件、へ号物件、ト(1)号物件、チ号物件は、発明2の実施にのみ使用する物であると主張する。
4 被告は、権利2の対象被告物件を、①日本国内で販売しているのみならず、②日本国内で製造の上、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)所在の者に販売・輸出しており、また、③中華人民共和国(以下「中国」という。)所在の者から購入し、日本を経由することなく、直接米国所在の者に販売している。
【争点】
1 権利2の対象被告物件は、発明2の実施にのみ使用する物か(間接侵害性)。
2 被告が、権利2の対象被告物件のうち米国への販売に係る物を製造、販売する行為は、権利2を侵害するか(外国譲渡)。
3 被告が、権利2の対象被告物件を中国で購入し、直接米国へ販売することは、権利2を侵害するか(日本不介在譲渡)。
【争点に関する当事者の主張】
1 争点1(間接侵害性)について
(原告の主張)
(1) 権利2の対象被告物件は、いずれも、パンケース8内にイースト、各種材料及び水を入れ、これらに対する混練及び発酵等の工程を自動化してあり、パンケース8をイースト、各種材料及び水のすべてを収納する一つだけとし、前記工程の開始時刻をタイマーで制御できるようにしてある製パン器である。そして、同物件の取扱説明書の指示から明らかなように、同物件をタイマー制御により使用する場合、使用者は、①水、②小麦粉、油脂等のパン材料、③イースト菌を、この順序でパン容器内に入れるから、同物件は、発明2の実施にのみ使用される製パン器である。
(2) タイマー付きの製パン器として、社会通念上、商業的ないしは実用的であると認められる用途は、タイマーを使用した製パンのみである。
(3) ある消費者が権利2の対象被告物件を購入し、一回あるいは数回の使用で、発明2の方法を実施しない(タイマーを使わない)ことがあったとしても、権利2の対象被告物件に他の用途があることにはならない。権利2の対象被告物件の使用者が、一度の使用においてタイマーを使わないことがあるとしても、その使用者が一度もタイマー機能を使わないということはありえない。なぜなら、もし使用者がタイマー付製パン器固有の機能・特徴に着目せず、タイマーを使う気がないのであれば、タイマーなしの製パン器を買うのであり、タイマー機能の付加価値分を支払ってまで権利2の対象被告物件を買うことはないからである。
(4) 被告が権利2の対象被告物件の他の用途であると主張するタイマーを使用しない使用方法は、発明2の技術的思想の中心であり発明2の重要な構成部分であるタイマー部分が使用されない(遊んでしまう)極めて変則的な使用方法である。このような使用方法では他の用途があるとはいうことはできない。
(5) タイマー付製パン器はタイマーのない製パン器の上位機種であり、権利2の対象被告物件において、タイマーを使用しない使用方法は、タイマーを使った使用方法の一部、又は、技術的、質的に下位の使用方法である。
(6) 発明2は、タイマーを用いる製パン方法であるから、間接侵害品たるべき製パン器はタイマー付きのものとなるが、タイマー付きの製パン器であっても物理的にタイマーを用いないで製パンを行うことは常に可能であるから、もしこの点を捉えて「のみ」の要件を欠くというのであれば、およそ権利2を侵害する行為といえるものはなくなり、権利2は特許として成立はしていても実際には何ら保護を与えられることがないという不当な結論に至ることになる。一方、被告としては、タイマーを外しさえすれば、間接侵害となることはなくなるから、権利2の対象被告物件が「のみ」の要件を充足すると考えても、何ら不当な結果を招くものではない。
(被告の主張)
(1) 権利2は、タイマー制御を前提とした製パン方法に関する発明であるが、権利2の対象被告物件において、タイマー制御は一つの機能にすぎず、同物件は、①タイマー制御することなく直ちに製パンすることや、②クロワッサン等の生地のみの作成にも使用することができ、そのことは同物件の取扱説明書にも記載されている。
したがって、権利2の対象被告物件は、発明2の実施にのみ使用される物ではない。
(2) 原告の主張について
権利2の対象被告物件の上記①、②の使用方法は、商業的実用的な用途であり、特に①は、同物件の基本的な使用形態である。他方、同物件のタイマー制御による製パン方法は、付随的使用形態にすぎない。
したがって、原告の主張(2)ないし(5)は、いずれも失当である。
2 争点2(外国譲渡)について
(原告の主張)
間接侵害は、本来の特許権の効力から付加されて与えられた効力であり、直接侵害を前提としていない。
また、被告は、日本から米国市場へ向けて販売するという原告の経済的効用を奪っているのであるから、原告の独占は補償されるべきである。
したがって、被告が権利2の対象被告物件を、米国所在の者に販売している行為も、権利2を侵害するものとみなされる。
(被告の主張)
権利2の対象被告物件が、米国に販売される場合、この方法が実施されるのは日本ではなく米国であり、直接侵害を構成しないから、直接侵害を前提とする間接侵害も構成しない。
3 争点3(日本不介在譲渡)について
(原告の主張)
特許権侵害の非難を受けるのは、人であり、物ではないから、侵害者が日本の裁判所の管轄に属する以上は、特許法の適用を制限する必要はない。
特許法は、国内の特許権者による実施(生産からのその後の流通に至るすべての経済的効用)を特許権者に帰属させて、その引き換えに発明を公開している。したがって、そのような特許権者の経済的独占に影響を及ぼすものは、すべて「実施」としなければならない。近時、生産拠点が、徐々に海外ヘシフトする動きが出ていること、日本の製造業では主力が海外市場というものが多くあることを考慮すれば、海外で生産された物を海外に販売する行為を、「実施」でないとすれば、日本における特許権の価値が大きく減殺されてしまい、日本の特許権者が本来得るべき経済的効用の独占を奪い、特許権者に不当に不利益を課すことになる。
したがって、被告が、権利2の対象被告物件を、中国所在の者から購入し、日本を経由することなく、直接米国所在の者に販売している行為についても、権利2を侵害するとみなすべきである。
(被告の主張)
特許権の属地主義からすれば、対象物件が日本の領土内に存在しない限り、我国の特許権を侵害するものではないというべきである。
したがって、特許法第二条三項の「実施」についても、対象たる物が日本の領土内に存在すること(あるいは、対象たる方法が日本の領土内で使用されること)を前提とするものである。
したがって、権利2の対象被告物件を、中国所在の者から購入し、日本を経由することなく、直接米国所在の者に販売する行為は、日本の特許権の侵害が問題となることはないというべきである。
【争点に対する判断】
1 争点1(間接侵害性)について
(1) 被告は、権利2の対象被告物件には、タイマーを使用しない使用方法や、生地作りのみに使用する用途があるから、発明2の実施にのみ使用されるものではないと主張するので、以下この点について検討する。
本来特許権は、業として特許発明の実施をすることを専有する権利であり(特許法六八条)、方法の発明においては、当該方法を使用することによって初めて当該発明の価値が発現するものであるから、方法の発明において本来特許権侵害とされるべきものは、当該方法を使用して当該特許発明を実施する行為(特許法二条三項二号)であるのが原則である。
しかしながら、方法の発明の実施を特許権者が捕捉することは困難であることが多いことから、単に方法の発明の実施行為のみを規制の対象とするのでは、特許権の効力の実効性を確保するのに十分とはいえない。そしてこの場合、方法の発明の実施に当たっては何らかの物を用いることが通常であることから、方法の発明の実施に用いられる物の製造、販売等を規制することとすれば、特許権の効力の実効性を確保するために寄与するところが大きいと考えられる。
しかし他方、方法の発明の実施に用いられる物は多種多様であり、それらの生産、販売等を一律に規制の対象としたのでは、本来特許権の効力が及ばないはずの、当該発明方法以外の方法の実施をも規制することにつながり、特許権の効力が不当に拡張されることになるおそれもある。
特許法一〇一条二号が、特許権を侵害するものとみなす行為の範囲を、その発明の実施「にのみ」使用する物を生産、譲渡等する行為のみに限定したのは、以上のような考慮に基づくものであって、そのような性質を有する物であれば、それが生産、譲渡等される場合には侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高いことから、その生産、譲渡等を規制しても特許権の効力の不当な拡張とならないとの趣旨に出るものであると解される。そして、このような観点から考えれば、その発明の実施「にのみ」使用する物とは、当該物に経済的、商業的又は実用的な他の用途がないことが必要であると解するのが相当である。なぜなら、業として製造、譲渡等される物が当該発明の侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高いといえるか否かは、その物の経済的、商業的又は実用的な用途の有無という観点から判断すべきものだからである。
(2) そこで以下、権利2の対象被告物件が発明2の実施にのみ使用する物といえるか否かを検討する。
ア 権利2の対象被告物件は、別紙物件目録1、2―(1)、3―(1)、4ないし7―(1)及び8の各三1及び4記載のとおり、パンケース8内にイースト、各種材料及び水を入れて使用する物であり、これらに対する混練(混ねつ)、発酵及び焼成の工程が自動化されており、ケーシング1内にタイマー機能を有するマイクロコンピュータを備え、これにより混練、発酵及び焼成の工程の時間制御が行われる製パン器である。
そして、証拠(甲18、21ないし24[枝番のすべてを含む])によれば、権利2の対象被告物件の取扱説明書においては、機種ごとに若干表現は異なるものの、各物件で山形パン(食パン)の焼成まで行う場合には、発明2と同じく、イースト菌と水との接触を避けるように、水と、小麦粉、油脂などのパン材料と、イースト菌とをパン容器内にこの順序に入れる方法のみが記載されていると認められるから、山形パンを焼く場合に関する限り、権利2の被告対象物件を使用する一般消費者がそれ以外の順序でパン材料を投入することは、それら被告対象物件の実用的用途としては予定されていないと認められる。したがって、権利2の対象被告物件を使って山形パンを焼く場合において、さらにタイマー機能も使用する場合には、発明2を実施することになり、その他の経済的、商業的又は実用的用途はないものというべきである。
なお、証拠(乙37、38)と弁論の全趣旨によれば、被告は、最近、二種類の製パン器(トータス株式会社にOEM供給していると思われるTYP800―10という型番とリーガルジャパン株式会社にOEM供給していると思われるK6745という型番のもの)の取扱説明書において、上記方法のうちパンケース8内に水と、小麦粉、油脂などのパン材料と、イースト菌を投入する順番を、①小麦粉、油脂などのパン材料、②水、③イースト菌とする(ただし、パン材料を容器の中央又は片側に寄せて、その余の部分に水を入れ、パン材料の上部にくぼみを作ってそこへイースト菌を入れることにより、イースト菌と水が接触しないようにしている。)ように記載していることが認められる。しかしながら、仮に、上記二種類の製パン器が、権利2の実施にのみ使用する物と評価できないとしても、上記二種類の製品の型番は別紙物件目録に記載されている権利2の対象被告物件の各型番とは異なるものであるから、上記製パン器が、権利2の対象被告物件に該当するのかどうかを認めるに足る証拠はない。したがって、乙37、38によって前記認定が左右されるものではない。
イ もっとも、証拠(甲18、21ないし24[枝番のすべてを含む])によれば、権利2の対象被告物件は、①タイマー機能を用いないで山形パンを焼く方法や、②焼成機能を用いないでパン生地のみを作る方法(焼成は別のオーブンで行う)に使用することもできるものと認められる。そして、これらの方法で各被告物件を使用する場合には、①ではタイマーを使用しておらず、②では焼き上げを自動で行っていないから、発明2の方法を実施するものとはいえない。
しかしながら、特許法一〇一条二号の「その発明の実施にのみ使用する物」という要件は、前記のとおり、特許権の効力の不当な拡張とならない範囲でその効力の実効性を確保するという観点から、特許権侵害とする対象を、それが生産、譲渡される場合には当該特許発明の侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高い物の生産、譲渡等に限定して拡張する趣旨に基づくものである。この趣旨からすれば、ある物が、当該特許発明を実施する機能と実施しない機能の複数の機能を切り替えて使用することが可能な構造になっており、当該発明を実施しない使用方法自体が存する場合であっても、当該特許発明を実施しない機能のみを使用し続けながら、当該特許発明を実施する機能は全く使用しないという使用形態が、当該物件の経済的、商業的又は実用的な使用形態として認められない限り、当該物件を製造、販売等することによって侵害行為(実施行為)が誘発される蓋然性が極めて高いことに変わりはないというべきであるから、なお「その発明の実施にのみ使用する物」に当たると解するのが相当である。
しかるところ、これまで述べたとおり、権利2の対象被告物件の使用方法には、①山形パンを焼くものと、②生地づくりまでを行うものがあり、①にはタイマーを使用する方法と使用しない方法があり、使用者はいずれかの使用方法をその都度適宜選択して使用することができるものである。そして、証拠(甲18、21ないし24[枝番のすべてを含む])によれば、被告は、権利2の対象被告物件において、タイマー機能及び焼成機能を重要な機能の一つと位置づけていると認められ、また、使用者たる一般消費者から見ても、製パン器という物の性質上、タイマー機能や焼成機能がある製パン器を、タイマー機能がない製パン器や焼成機能のない製パン器(生地作り専用の機器)と比較した場合、それらの機能の存在が需要者の商品選択上の重要な考慮要素となり、顧客吸引力の重要な源となっていることは容易に想像がつくことである。
そうすると、そのようなタイマー機能及び焼成機能が付加されている権利2の対象被告物件をわざわざ購入した使用者が、同物件を、タイマー機能を用いない使用や焼成機能を用いない使用方法にのみ用い続けることは、実用的な使用方法であるとはいえず、その使用者がタイマー機能を使用して山形パンを焼成する機能を利用することにより、発明2を実施する高度の蓋然性が存在するものと認められる。
したがって、権利2の対象被告物件に発明2との関係で経済的、商業的又は実用的な他の用途はないというべきであり、同物件は、権利2の実施にのみ使用する物であると認められる。
2 争点2(外国譲渡)について
(1) 被告は、権利2の対象被告物件のうち外国に販売されるものについては、発明2の実施にのみ使用する物に当たらないと主張する。この被告の主張は、特許法一〇一条二号の「その発明の実施にのみ使用する物」との要件における「実施」は、日本国内におけるものに限られるとの趣旨であると解される。
先に述べたとおり、特許法一〇一条二号の「その発明の実施にのみ使用する物」という要件は、前記のとおり、特許権の効力の不当な拡張とならない範囲でその実効性を確保するという観点から、特許権侵害とする対象を、それが生産、譲渡等される場合には当該特許発明の侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高い物の生産、譲渡等に限定して拡張する趣旨に基づくものである。そうすると、「その発明の実施にのみ使用する物」という要件が予定する「実施」がどのようなものでなければならないかを検討するに当たっては、当該特許発明の直接侵害行為(実施行為)を規制することとは別に、間接侵害行為をどの程度まで規制することが、特許権の効力の不当な拡張とならない範囲で特許権の効力の実効性を確保するものといえるかという観点を抜きにしては考えられないものというべきである。
しかるところ、本来、日本国外において、日本で特許を受けている発明の技術的範囲に属する方法を使用してその価値を利用しても、日本の特許権を侵害することにはならない。それは、日本における特許権が、日本の主権の及ぶ日本国内においてのみ効力を有するにすぎないことに伴う内在的な制約によるものであり、このような見地から、特許法二条三項にいう「実施」は、日本国内におけるもののみを意味すると解すべきである。そうすると、外国で使用される物についてまで「その発明の実施にのみ使用する物」であるとして特許権の効力を拡張する場合には、日本の特許権者が、本来当該特許権によっておよそ享受し得ないはずの、外国での実施による市場機会の獲得という利益まで享受し得ることになり、不当に当該特許権の効力を拡張することになるというべきである。
この点について原告は、外国において使用される物であっても、日本から米国市場に向けて販売するという原告の経済的効用を奪っていると主張するが、米国で発明2を実施することにより得られる市場機会は、日本の特許権者たる原告にはそもそもおよそ保障されていないのであるから、日本から米国市場に向けて販売するという原告の経済的効用も、日本の特許権によって保護されるべきものではないというべきである。
したがって、「その発明の実施にのみ使用する物」における「実施」は、日本国内におけるものに限られると解するのが相当であり、このように解することは、前記のような特許法二条三項における「実施」の意義にも整合するものというべきである。
(2) 被告は、権利2の対象被告物件を、①日本国内で販売しているのみならず、②日本国内で製造の上、米国所在の者に販売・輸出しており、また、③中国所在の者から購入し、日本を経由することなく、直接米国所在の者に販売しているが、②及び③は、いずれも、権利2の効力が及ばない米国で発明2の実施が行われることになるので、特許法一〇一条二号の間接侵害を構成しないというべきである。
なお付言するに、被告が製造、販売する権利2の対象被告物件の中には、日本国内で販売され、使用されるものも存在するが、製パン器という商品の性質からすると、それらの被告物件は主に一般家庭において使用され、その実施行為は特許法六八条の「業として」の実施に該当しないものであるから、直接侵害行為を構成することがない。しかし、同法が特許権の効力の及ぶ範囲を「業として」行うものに限定したのは、個人的家庭的な実施にすぎないものにまで特許権の効力を及ぼすことは、産業の発達に寄与することという特許法の目的からして不必要に強力な規制であって、社会の実情に照らしてゆきすぎであるという政策的な理由に基づくものであるにすぎず、一般家庭において特許発明が実施されることに伴う市場機会をおよそ特許権者が享受すべきではないという趣旨に出るものではないと解される。そうすると、一般家庭において使用される物の製造、譲渡等(もちろんこれは業として行われるものである)に対して特許権の効力を及ぼすことは、特許権の効力の不当な拡張であるとはいえず、かえって、上記のような政策的考慮によって特許権の効力を制限した反面として、特許権の効力の実効性を確保するために強く求められるものともいえる。したがって、「その発明の実施にのみ使用する物」における「実施」は、一般家庭におけるものも含まれると解するのが相当であり、このように解することは、特許法二条三項の「実施」自体の意義には一般家庭におけるものも含まれると解されること(一般家庭における方法の発明の使用が特許権の効力に含まれないのは、「実施」に当たらないからではなく「業として」に当たらないからである。)とも整合する。よって、権利2の対象被告製品のうち、日本国内で販売されるものの製造、販売は、特許法一〇一条二号によって侵害とみなされる。
第5 権利4及び権利5に係る請求について
【争いのない事実等】
1 原告は次の特許権(以下「権利4」という。)を有している。
発明の名称 製パン器の加熱制御装置
出願日 昭和六二年二月一三日
(特願平五―五四七五九号)
分割の表示 特願昭六二―三一九七七号の分割
公告日 平成七年一月一八日
(特公平七―二一四四号)
登録日 平成八年一二月二〇日
特許番号 特許第二一一九七〇七号
2 権利4の特許出願の願書に添付された明細書(以下「権利4明細書」という。)の特許請求の範囲は次のとおりである(以下この特許発明を「発明4」という。)。
パン材料を投入して混練及び発酵及び焼成を行う焼成ケースを備えると共に、前記焼成ケースをオーブンに内設させる装置において、前記オーブン内部がイースト菌死滅温度よりも低い所定の設定温度以上であることを検出する手段を備え、製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答するとき警報を行う手段を設けると共に、製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答するとき警報を行う手段を設けたことを特徴とする製パン器の加熱制御装置。
3 発明4は、次のとおり分説するのが相当である。
A パン材料を投入して混練及び発酵及び焼成を行う焼成ケースを備えると共に、前記焼成ケースをオーブンに内設させる装置において、
B 前記オーブン内部がイースト菌死滅温度よりも低い所定の設定温度以上であることを検出する手段を備え、
C 製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答するとき警報を行う手段を設けると共に、
D 製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答するとき警報を行う手段を設けたことを特徴とする
E 製パン器の加熱制御装置
4 原告は次の特許権(以下「権利5」という。)を有している。
発明の名称 製パン器の加熱制御装置
出願日 昭和六二年二月一三日
(特願平六二―三一九七七号)
公告日 平成四年四月二日
(特公平四―二〇三三七号)
登録日 平成五年一二月二七日
特許番号 特許第一八一二六九五号
5 権利5の特許出願の願書に添付された明細書(以下「権利5明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は次のとおりである(以下この特許発明を「発明5」という。)。
パン材料を投入して混練及び発酵及び焼成を行う焼成ケースを備えると共に、前記焼成ケースをオーブンに内設させる装置において、前記オーブン内部がイースト菌死滅温度以下の設定温度であるか否かを検出する手段を設け、製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を開始させない手段を設けると共に、製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を中止させる手段を設けたことを特徴とする製パン器の加熱制御装置。
6 発明5は次のとおり分説するのが相当である。
A パン材料を投入して混練及び発酵及び焼成を行う焼成ケースを備えると共に、前記焼成ケースをオーブンに内設させる装置において、
B 前記オーブン内部がイースト菌死滅温度以下の設定温度であるか否かを検出する手段を設け、
C 製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を開始させない手段を設けると共に、
D 製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を中止させる手段を設けたことを特徴とする
E 製パン器の加熱制御装置。
7 原告は、イ号ないしチ号物件は、いずれも、発明4の技術的範囲に属する加熱制御装置を具備する製パン器であり、また、イ号物件、ロ(1)号物件、ロ(2)号物件は、発明5の技術的範囲に属する加熱制御装置を具備する製パン器であると主張する。
8 権利4の対象被告物件が、発明4の構成要件A及びEを具備すること、権利5の対象被告物件が、発明5の構成要件A及びEを充足することは、当事者間に争いがない。
【争点】
1 構成要件B充足性
権利4の対象被告物件は、発明4の構成要件Bを充足し、権利5の対象被告物件は、発明5の構成要件Bを充足するか。
2 構成要件C及びD充足性
権利4の対象被告物件は、発明4の構成要件C及びDを充足し、権利5の対象被告物件は、発明5の構成要件C及びDを充足するか。
【争点に関する当事者の主張】
1 争点1(構成要件B充足性)について
(原告の主張)
(1) 発明4の構成要件Bの「イースト菌死滅温度よりも低い所定の設定温度」及び発明5の構成要件Bの「イースト菌死滅温度以下の設定温度」とは、「イースト菌死滅温度」が約六〇度であることから、「約六〇度よりも低い所定の設定温度」又は「約六〇度以下の設定温度」を指すことは、文理上明らかである。そして「約六〇度よりも低い」又は「約六〇度以下」との文言は、その上限のみを画しており、その下限についてはまったく言及していないから、「設定温度」は、幅のある温度範囲から設定することができる。
(2) 被告は、「イースト菌死滅温度よりも低い所定の設定温度」又は「イースト菌死滅温度以下の設定温度」が四〇度以下だと製パン器としての機能に支障がでるから、それは四〇度以下ではあり得ないはずであると主張するが、権利4及び5の対象被告物件は、四〇度以下に設定温度を設定しており、それにもかかわらず、製パン器としての機能に支障が生じていない以上、被告の主張は失当である。
(3) 権利4の対象被告物件は、別紙物件目録1ないし8の各三5記載のとおりの構成を具備しているから、発明4の構成要件Bを充足する。
権利5の対象被告製品は、別紙物件目録1ないし2―(2)の各三6記載のとおりの構成を具備しているから、発明5の構成要件Bを充足する。
(被告の主張)
(1)ア 発明4の構成要件Bの「イースト菌死滅温度よりも低い所定の設定温度」及び発明5の構成要件Bの「イースト菌死滅温度以下の設定温度」とは、イースト菌死滅温度である六〇度に近い温度(常識的には、五五度前後、もしくは、五〇度から五九度程度)と解されるべきである。
なぜなら、権利4明細書及び権利5明細書の記載によれば、発明4及び5は、いずれも、「タイマなどの予約操作により最低温度を保持する場合、オーブン内部温度が過大となってイースト菌が死滅する可能性があると共に、高温状態のオーブンにイースト菌を入れて死滅させる可能性がある」という従来技術の問題点を解決するものであるからである。
また、発明4の出願公告時における特許請求の範囲の記載のうち構成要件Bに相当する個所は、「イースト菌死滅温度として設定された設定温度」と記載されていたのであるから、出願公告後の補正により「イースト菌死滅温度よりも低い所定の設定温度」と補正されたことを理由に、権利範囲を拡大することは許されない。
イ 仮に、「イースト菌死滅温度よりも低い所定の設定温度」及び「イースト菌死滅温度以下の設定温度」がイースト菌死滅温度である六〇度に近い温度であると解されないとしても、その温度は、四〇度以下ではあり得ないはずである。なぜなら、イースト菌の発酵温度である三〇度ないし四〇度を検出したときに警報を行い又は製パン動作を中止するとすれば、正常な製パン工程中でも警報がなされ、製パン動作が中止されてしまうからである。
(2) 権利4の対象被告物件においては、イースト菌の死滅防止ではなくイースト菌の過発酵の防止のため、スタートキーを押した時点において温度センサが三八度以上を検出する構成を具備しているのであるから、発明4の構成要件Bを充足しない。
権利5の対象被告物件においても、同様に、発明5の構成要件Bを充足しない。
2 争点2(構成要件C及びD該当性)について
(原告の主張)
(1)ア 発明4の構成要件C及びD、即ち「製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答するとき警報を行う手段を設けると共に、製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答するとき警報を行う手段を設けたことを特徴とする」のうち、「製パン動作開始」とは、製パン器が動作を始めること、すなわち、撹拌を開始することを意味する(別紙図2参照)。このことは、発明5の構成要件C及びD、即ち「製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を開始させない手段を設けると共に、製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を中止させる手段を設けたことを特徴とする」のうち、「製パン動作開始」の意味についても同じである。
イ 被告は、発明4及び発明5の「製パン動作開始」を、製パン工程(製パン予約中の予熱工程は製パン工程に含まれる)を開始することであると主張する。
しかし、被告の立論は、権利4明細書及び権利5明細書に記載された解決すべき課題のうち、連続してパン焼き器を使用する場合に、高温状態のオーブンにイースト菌を入れて死滅させるという問題を重視し、予熱段階においてオーブン内部温度が自然に上昇し、過大となってイースト菌が死滅する可能性があるという問題を全く無視している。なお、原告のように「製パン動作開始」を解釈しても、高温状態のオーブンにイースト菌を容れて死滅させる可能性があるという課題は、製パン動作開始後において所定の設定温度を検出したとき警報を行い又は製パン動作を中止させることにより解決される。
また、被告の解釈は、権利4明細書及び権利5明細書の実施例中の「製パン予約操作後で製パン動作前において」という自分にとって都合の悪い記載を誤記と主張する、極めて偏った解釈である。
さらに、被告は、権利4明細書及び権利5明細書に「製パン動作前」に製パン動作の中止をする旨の記載があることをその根拠とするが、原告の解釈によっても「製パン動作前」にはタイマー予約を設定しているので、将来の製パン動作(撹拌)を中止することはできるのである。
(2) 発明4及び5の構成要件C及びDの「前記設定温度」とは、「イースト菌死滅温度よりも低い所定の設定温度」ということになり、前記1(原告の主張)(1)のとおり、幅のある温度を示しているのであるから、構成要件CとDの設定温度は、各々、一定の幅の中の任意の値をとり得ることとなる。これは、イースト菌に必要な温度の管理機能を全うするためには、種々の値を選択でき、当該製パン器の特性と設計思想に合わせて違いを持たせることを意味し、発明4及び発明5の目的及び作用効果からしても、当然のことである。
(3) 発明4の構成要件Dの「前記検出手段が前記設定温度に応答するとき警報を行う」とは、前記検出手段が前記設定温度に応答する場合に警報を行うことを意味するのであって、前記検出手段が前記設定温度に応答した時点で警報を行うことに限定されるものではない。なぜなら、警報があっても、ユーザーが絶えず警報の有無を注視しているわけではないことから、製パン工程は継続するのであり、警報はその製パン工程において温度管理が不適切であったことを知らせることでも十分であり、ユーザーは、でき上がったパンの焼き上がりが悪い場合に、警報が出ているかどうかを確認し、焼き上がりが悪い場合に温度管理が不適切であったためであるかどうかを確認することができれば、十分にその目的を達成するからである。
(4) 権利4の対象被告物件は、別紙物件目録1ないし8の三5記載のとおりの構成を具備しているから、発明4の構成要件C及びDを充足する。
権利5の対象被告製品は、別紙物件目録1ないし2―(2)の各三6記載のとおりの構成を具備するから、発明5の構成要件C及びDを充足する。
(被告の主張)
(1)ア 発明4の構成要件C及びDの「製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答するとき警報を行う手段を設けると共に、製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答するとき警報を行う手段を設けた」との構成、及び発明5の構成要件C及びDの「製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を開始させない手段を設けると共に、製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答するとき製パン動作を中止させる手段を設けた」との構成の、製パン動作の開始前か後かは、次の理由により、製パン予約中の予熱工程を含む製パン工程開始の前か後を意味する(別紙図1参照)。
(ア) 発明4及び5は、従来技術では、タイマなどの予約操作により最低温度を保持する場合に、オーブン内部温度が過大となってイースト菌が死滅することや、高温状態のオーブンにイースト菌を入れて死滅させるという問題があったことを解決すべき課題とするものである。
また、発明4及び5の作用、効果は、製パン予約操作後及び製パン終了後の温度監視を適正に行い得るという点にある。
したがって、発明4及び5は、①製パン予約操作後のイースト菌の死滅防止、及び②製パン終了後の(即ち、次の製パン開始前の)高温状態のオーブンにイースト菌を入れて死滅させることを防止することに対応して発明が構成されているというべきであるから、①が「製パン動作開始後」であり、②が「製パン動作開始前」を意味することになる。ただし、製パンを行う場合に予約操作を行わず、いきなり混練(攪拌)の工程を開始する場合もあるので、「製パン動作開始後」とは、予約中の予熱工程を含む製パン工程開始後を意味することになる。
(イ) また、権利4明細書及び権利5明細書における実施例の記載においても、「製パン予約操作後で製パン動作前において前記サーモスタットからの温度過大出力に基づいてエラー表示などの警報と製パン動作の中止を行わせる一方、製パン終了後において前記サーモスタットからの温度過大出力に基づいてエラー表示などの警報を行い、連続して製パンを行うとき、焼成ケース内部が冷却した後でパン材料及びベーキングパウダ(イースト菌)を入れ、高温によるイースト菌の死滅を防止すべく構成している」ものが開示されている。
なお、右実施例の「製パン予約操作後で製パン動作前において」との記載部分における「製パン動作前」は、予約操作後の予熱工程について述べているとすれば「混練開始前」の意味において使用されているのであり、製パン工程全体について述べているのであれば「製パン終了前」の誤記であると考えられる。しかし、いずれにしろ、これに続く「エラー表示などの警報と製パン動作の中止を行わせる」との記載から判断すれば、「予約操作後の予熱工程」が「製パン動作開始後」に含まれると解さざるを得ないのである(開始していないのに中止するということはあり得ない)。
(ウ) さらに、一般的な語義としても、製パンの工程は、別紙図1に記載したように、予熱、混練(攪拌)、発酵、焼成の各過程よりなり、この製パン工程中の製パン器の動作はすべて「製パン動作」である。
イ 原告は、「製パン動作開始」とは、製パン器が動作を始めること、すなわち、撹拌を開始することを意味すると主張する。
原告は、製パン終了後で製パン予約操作までの間は、製パン動作開始後に含まれると主張するが、そのような解釈は、混練及び発酵(成形発酵である焙炉を含む)までと、製パン動作終了後とに分裂した二つの期間が製パン動作開始後に含まれることになる上、権利4明細書及び権利5明細書の記載とも整合しない。
ウ 権利4の対象被告物件は、スタートキーを押した時点において三八度以上であるか否かを検出するが、スタートキーを押した時点は、製パン動作開始の前でもなく後でもないから、製パン動作開始前(製パン終了後で予熱工程を含む製パン工程開始前)において、温度センサは作動していない。また、一回目の製パン終了後二回目の製パン開始前においても、温度センサが作動する構成ではない。
したがって、権利4の対象被告製品は、発明4の構成要件Cを充足しない。
また、権利5の対象被告製品も、同様に、発明5の構成要件Cを充足しない。
(2) 発明4の構成要件C及びDの「前記設定温度」は、構成要件Bの「前記オーブン内部がイースト菌死滅温度よりも低い所定の設定温度」であり、発明5の構成要件C及びDの「前記設定温度」は、構成要件Bの「前記オーブン内部がイースト菌死滅温度以下の設定温度」であるから、その文言上、一義的に設定された同一の温度を意味することは明らかであり、権利4明細書及び権利5明細書においても、異なる設定温度を設けることを示唆する記載は一切ない。
権利4の対象被告物件においては、別紙物件目録1ないし8の各三5記載のとおり、「製パン動作開始前」と「製パン動作開始後」とで検出する温度が異なるから、発明4の構成要件C及びDを充足しない
また、権利5の対象被告物件も、同様に、発明5の構成要件C及びDを充足しない。
(3)ア 発明4の構成要件Dの構成は、「前記検出手段が前記設定温度に応答するとき警報を行う」ものであるところ、「応答するとき」とは、検出手段が所定の設定温度を検出した時点でなければならない。
なぜなら、所定の設定温度を検出後製パン動作を継続したまま警報を行わず、製パン動作終了後に警報を行うものであるとすれば、イースト菌が死滅したまま製パン動作が継続されることになり、製パン動作開始の前後にわたって継続的に温度監視をし、イースト菌が死滅するのを防止するという発明4の目的が達せられないからである。
また、警報とは、「危険がおこりそうな時、それを一般の人に注意して警戒させるための知らせ」(岩波国語辞典)とあるように、危険の切迫に対して前もって知らせるものである。
イ 権利4の対象被告製品のうち、ハ(1)号物件ないしチ号物件については、動作開始後に温度センサが六〇度以上を検出した場合には、製パン完了時にエラー表示を行う構成であるから、発明4の構成要件Dを充足しない。
【争点に対する判断】
1 争点2(構成要件C及びD充足性)について
(1) 発明4及び発明5の構成要件C「製パン動作開始前」及び構成要件D「製パン動作開始後」の意味について検討するに、「製パン動作開始」が具体的な製パン工程のうちどの段階を指しているのかは、特許請求の範囲の記載からは一義的に明確ではない。
そこで、明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載を検討するに、権利4明細書及び権利5明細書には次のとおりの記載がある(甲4の1と2、甲5の1と2)。
(2) 権利4明細書の記載
ア 発明が解決しようとする課題【〇〇〇三】
前記従来技術は、タイマなどの予約操作により最低温度を保持する場合、オーブン内部温度が過大となってイースト菌が死滅する可能性があると共に、高温状態のオーブンにイースト菌を入れて死滅させる可能性があり、安全性及び取扱い操作性を容易に向上させ得ない等の問題があった。
イ 課題を解決するための手段【〇〇〇四】
製パン予約操作後並びに製パン終了後の温度監視を適正に行い得、従来の装置に比べて安全性並びに取扱い操作性などを容易に向上させ得、イースト菌に必要な温度管理機能の向上などを容易に図り得るものである。
ウ 実施例【〇〇一〇】
オーブンを構成する焼がま本体(2)内部がイースト菌死滅温度(約六〇℃)以下であるか否かを検出する手段である前記サーモスタット(36)を設け、製パン予約操作後で製パン動作前において前記サーモスタット(36)からの温度過大出力に基づいてエラー表示などの警報と製パン動作の中止を行わせる一方、製パン終了後において前記サーモスタット(36)からの温度過大出力に基づいてエラー表示などの警報を行い、連続して製パンを行うとき、焼成ケース(16)内部が冷却した後でパン材料及びベーキングパウダ(イースト菌)を入れ、高温によるイースト菌の死滅を防止すべく構成している。
エ 実施例【〇〇一六】
またパン焼上り時間から製パンに必要な時間を逆算して約四時間前に製パン動作が開始されるもので、メインモータ(24)により羽根(19)を回転させて焼成ケース(16)内のパン材料を混練すると共に、送風フアン(31)及びフアンヒータ(32)により温風又は冷風を焼成ケース(16)内に送り、図6の如く生地センサ(28)出力に基づいて前記ケース(16)内の温度をt二度に維持し、m一時間の第一撹拌及びm二時間の休み及びM一時間の第二撹拌を行わせる。
オ 実施例【〇〇一七】
予熱から焙炉に至る工程において、図8の如くサーモスタット(36)出力に基づいてt四度以下であることを確認し、イースト菌が死滅する六〇度以上に温度が上昇したとき、エラー表示の警報を行うと共に、製パン動作を中止させる。
カ 実施例【〇〇一八】
パンを焼上げると共に、フアンモータ(30)を作動させてM六時間の冷却を行い、パンの製作を完了するもので、前記サーモスタット(36)の検出によりt四度以下に温度が下るまでエラー表示の警報を行い、製パン動作を再開させるときにイースト菌が死滅するのを防止している。
キ 発明の効果【〇〇二三】
以上実施例から明らかなように本発明は、パン材料を投入して混練及び発酵及び焼成を行う焼成ケース(16)を備えると共に、前記焼成ケース(16)をオーブン(2)に内設させる装置において、前記オーブン(2)内部がイースト菌死滅温度よりも低い所定の設定温度以上であることを検出する手段を備え、製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答するとき警報を行う手段を設けると共に、製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答するとき警報を行う手段を設けたもので、製パン予約操作後並びに製パン終了後の温度監視を適正に行うことができ、従来の装置に比べて安全性並びに取扱い操作性などを容易に向上させることができ、イースト菌に必要な温度管理機能の向上などを容易に図ることができる等の実用的な効果を奏するものである。
(3) 権利5明細書の記載
ア 発明が解決しようとする問題点
前記(2)アと同じ記載。
イ 作用
製パン予約操作後並びに製パン後の温度監視を適正に行い得、従来に比べて安全性並びに取扱い操作性などを容易に向上させ得、イースト菌に必要な温度管理機能の向上などを容易に図り得るものである。
ウ 実施例
前記(2)ウと同じ記載。
エ 実施例
前記(2)エと同じ記載。
オ 実施例
前記(2)オと同じ記載。
カ 実施例
前記(2)カと同じ記載。
キ 発明の効果
以上実施例から明らかなように本発明は、パン材料を投入して混練及び発酵及び焼成を行う焼成ケース(16)を備えると共に、前記焼成ケース(16)をオーブン(2)に内設させる装置において、前記オーブン(2)内部がイースト菌死滅温度以下の設定温度であるか否かを検出する手段を設け、製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を開始させない手段を設けると共に、製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を中止させる手段を設けたものである。
そして製パン予約操作後並びに製パン後の温度監視を適正に行うことができ、従来に比べて安全性並びに取扱い操作性などを容易に向上させることができ、イースト菌に必要な温度管理機構の向上などを容易に図ることができる等の実用的な効果を奏するものである。
(4) 上記(2)(3)記載のように、権利4明細書と権利5明細書は、発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段ないし作用、発明の効果、実施例等において、ほとんど同一の記載内容となっており、権利5の特許出願が権利4の特許出願から分割出願されたものであることを考え併せれば、共通して特許請求の範囲の構成要素となっている構成要件Cの「製パン動作開始前」と構成要件Dの「製パン動作開始後」とは、同じ意味に理解するのが相当である。
発明4及び5の課題は、①タイマなどの予約操作により最低温度を保持する場合、オーブン内部温度が過大となってイースト菌が死滅すること、及び②高温状態のオーブンにイースト菌を入れて死滅させることを防止するため、製パン予約操作後及び製パン終了後の温度監視を適正に行い、従来の装置に比べて安全性及び取扱い操作性などを容易に向上させ、イースト菌に必要な温度管理機能の向上などを容易に図ることにあると認められる(前記(2)及び(3)の各ア、イ及びキ)。
また、発明4及び5の効果は、上記①及び②を防止するため、製パン予約操作後及び製パン終了後の温度監視を適正に行うことができ、従来の装置に比べて安全性並びに取扱い操作性などを容易に向上させることができ、イースト菌に必要な温度管理機能の向上などを容易に図ることができるなどの実用的な効果を奏することであると認められる。なお、権利4明細書及び権利5明細書の各効果欄には、発明4及び5の効果として、「上記①及び②を防止するため」という記載はないものの(前記(2)及び(3)のキ)、各明細書の全体を通じて読めば、各効果欄に「製パン予約操作後並びに製パン終了後の温度監視を適正に行い」、「イースト菌に必要な温度管理機能の向上などを容易に図ることができる」とあるのは、上記①及び②のようなイースト菌の死滅を防止するための適正な温度監視と温度管理機能の向上を意味すると理解するのが相当である。
発明4及び5が、上記課題を解決するために発明された解決手段であり、上記効果を奏していることに照らせば、発明4の「製パン動作開始前……警報を行う手段」(以下「開始前警報手段」という。)及び「製パン動作開始後……警報を行う手段」(以下「開始後警報手段」という。)、並びに発明5の「製パン動作開始前……製パン動作を開始させない手段」(以下「製パン動作不開始手段」という。)及び「製パン動作開始後……製パン動作を中止させる手段」(以下「製パン動作中止手段」という。)は、①いずれかが、タイマなどの予約操作により最低温度を保持する場合、オーブン内部温度が過大となってイースト菌が死滅することを防止するための手段であり、②他方が、高温状態のオーブンにイースト菌を入れて死滅させることを防止するための手段であると解するのが相当である。
そして、発明5においては、製パン動作開始後は「製パン動作中止手段」が作用することを念頭に、前記(3)イ、ウ、オ、カ及びキの記載を参照すると、①発明4の「開始後警報手段」と、発明5の「製パン動作中止手段」が、タイマなどの予約操作により最低温度を保持する場合、オーブン内部温度が過大となってイースト菌が死滅することを防止するための手段であり、②発明4の「開始前警報手段」と発明5の「製パン動作不開始手段」が、高温状態のオーブンにイースト菌を入れて死滅させることを防止するための手段であると解される。
そうすると、別紙図1記載のとおり、「製パン動作開始前」とは、パンの製作を完了した後次の予熱工程の開始までの期間を指し、「製パン動作開始後」とは、予熱工程の開始から焙炉の終了までを意味し、「製パン動作開始」とは、タイマを用いる場合には予熱工程の開始を、タイマを用いない場合には混ねつ工程の開始を意味すると解するのが相当である。
(5) 原告は、「製パン動作開始」とは、撹拌を開始することを意味し、製パン動作開始前と開始後とは、別紙図2のような関係になると主張する。
確かに、前記(2)及び(3)のウ「製パン予約操作後で製パン動作前」との記載やエの「製パン動作」の記載は、原告の主張に沿う記載であるということもできる。
しかし、まず、権利4明細書及び権利5明細書の実施例の記載についてみると、製パン動作を中止させることが妥当するのは、前記(2)及び(3)のウでは「製パン予約操作後で製パン動作前」であるのに対し、同オでは「予熱から焙炉に至る工程」とされており、「製パン動作前」と「焙炉」を同義に理解することはおよそ不可能であるから、「製パン動作」という語の使用について、明細書の記載は混乱しているといわざるを得ない。
また、原告の主張のように解すると、発明4及び5の解決課題及び効果である①タイマなどの予約操作により最低温度を保持する場合、オーブン内部温度が過大となってイースト菌が死滅することを防止するのは、「開始前警報手段」、「製パン動作不開始手段」と「開始後警報手段」、「製パン動作中止手段」で解決し、②高温状態のオーブンにイースト菌を入れて死滅させることを防止するのは、「開始後警報手段」、「製パン動作中止手段」で解決することになり、発明4及び5が解決しようとした課題及び効果と発明4及び5の構成との対応関係が不自然となるばかりでなく、上記②の課題が生じるのは、パン製作完了後次の製パン動作開始までの間であるから、その間、特にパン製作完了後予熱工程開始までの間に、「製パン動作中止手段」が作用するというのは、理解し難い事態である。
さらに、発明4及び5は、いずれも上記①及び②の課題を共に解決する作用効果を有するものであるが、原告主張のように解するならば、例えば予熱から混練までの間の「製パン動作開始前」と、混練から焙炉までの間の「製パン動作開始後」に設定温度の検出を行う場合でも本件発明の構成要件を充足することになるが、その場合には②の課題は何ら解決されないままであるから不合理である。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(6) 次に、権利4の対象被告物件が、発明4の構成要件Cを充足しているかについて検討する。
権利4の対象被告物件は、いずれも、オーブンケース3内の側面に取り付けられた温度センサが接続されているマイクロコンピュータの制御により、スタートキー操作時点において温度センサが三八度以上を検出した場合には表示パネルにE:01が表示するか、Knead/Riseランプを点滅、その他ランプを点灯する構成となっている。
上記物件は、スタートキーの操作により、タイマを使用する場合には予熱工程が、タイマを使用しない場合には混練工程が開始する(以下まとめて「予熱工程等」という。)から、スタートキー操作時点において検出される温度は、予熱工程等の開始直前の温度を検出していることになる。したがって、この構成が、構成要件Cに該当するかどうかを検討する必要がある。
ところで、構成要件Cは、高温状態のオーブンにイースト菌を入れて死滅させることを防止するため、「警報を行う手段」を設けているのであるから、当該警報手段は、製パン器の使用者が、高温状態のオーブンにイースト菌を入れることを避けることができるような時期に作動するものでなければならないと解される。このことは、前記(2)ウ及びカの記載からも明らかである。
しかしながら、先に見たとおり、権利4の対象被告物件は、スタートキー操作時点において温度センサが三八度以上を検出した場合に何らかの表示等をしているのであり、この時点において既に同物件の使用者は、イースト菌をパンケース内に投入してしまっている。そうすると、その表示等を、構成要件Cの「警報」とみることはできないというべきである。
確かに、権利4の対象被告物件においては、温度センサが検出する温度は三八度以上であるから、スタートキー操作時点における表示等でもイースト菌が死滅していないこともあろう。しかし、同物件においては、使用者がイースト菌を入れるとき、オーブン内部の温度がイースト菌の死滅温度である六〇度を超えている場合でも、同物件の使用者がパンケース内にイースト菌を投入することを避けることはできないのである。
したがって、権利4の対象被告物件は、発明4の構成要件Cを充足しないというべきである。
(7) 次に、権利5の対象被告物件が、発明5の構成要件Cを充足しているかについて検討する。
権利5の対象被告物件は、いずれも、オーブンケース3内の側面に取り付けられた温度センサが接続されているマイクロコンピュータの制御により、スタートキー操作時点において温度センサが三八度以上を検出した場合には製パン動作を開始させない。
ところで、発明5の構成要件Cは、高温状態のオーブンにイースト菌を入れて死滅させるという解決課題を解決するために設けられている構成であるから、「製パン動作不開始手段」は、製パン器の使用者が、高温状態のオーブンにイースト菌を入れてしまうことを避けることができるような手段でなければならないと解される。
もっとも、発明5における「製パン動作を開始させない」という文言からは、「製パン動作を中止する」がそうであるように、コンピュータ制御等の強制的手段によって製パン動作を開始させないことを意味すると通常は理解されるので、このような見方からすれば、発明5の「製パン動作を開始させない手段」とは、発明4の「警報を行う手段」とは異なり、高温状態のパン容器内にイースト菌を入れて死滅させることを防止するという解決課題とは関係がなく、前記のような解釈を採用することは不合理であるとも考えられる。
しかしながら、発明5明細書の発明の詳細な説明欄をみると、発明5の解決課題として記載されているのは、タイマなどの予約操作により最低温度を保持する場合、オーブン内部温度が過大となってイースト菌が死滅することを防止すること以外には、高温状態のオーブンにイースト菌を入れて死滅させることを防止することのみであり、また、実施例の記載を見ても、これらの解決課題に対応する記載があるにとどまる(前記(2)及び(3)のウ及びオ)。したがって、発明5の「製パン動作を開始させない手段」は、高温状態のパン容器内にイースト菌を入れて死滅させることを防止するという効果を奏するものであると解する以外にはないというべきである。そして、実施例の記載においてそのような手段として開示されているのがエラー表示などの警報を行うことのみであること(前記(2)及び(3)のウ及びオ)からすると、発明5の「製パン動作を開始させない手段」は、必ずしもコンピュータ制御等の強制的手段によって製パン動作を開始させないことに限定されるものではなく、警報等の、使用者をして製パン動作を開始させないようにする手段も包含するものと解するほかはないというべきである。
しかるところ、権利5の対象被告物件は、先に見たとおり、スタートキー操作時点において温度センサが三八度以上を検出した場合に製パン動作(予熱工程)を開始させないのであり、この時点において既に同物件の使用者は、イースト菌をパンケース内に投入してしまっている。そうすると、同物件において、予熱工程を開始させない手段は、発明5の構成要件Cの「製パン動作不開始手段」とみることはできないというべきである。
2 以上より、イ号ないしチ号物件が、発明4の技術的範囲に属するとは認められず、また、イ号物件、ロ(1)号物件、ロ(2)号物件が、発明5の技術的範囲に属するとも認められない。
第6 権利6に係る請求について
【争いのない事実等】
1 原告は、次の特許権(以下「権利6」という。)を有している。
発明の名称 製パン器に於けるこね用羽根の制御方法
出願日 昭和六一年一二月一二日
(特願昭六一―二九七三五一号)
公告日 平成七年八月三〇日
(特公平七―七九七七二号)
登録日 平成九年七月二五日
特許番号 特許第二一三一〇三六号
2 権利6の特許出願の願書に添付された明細書(以下「権利6明細書」という。)の特許請求の範囲は次のとおりである(以下この特許発明を「発明6」という。)。
予めパンケース内に入れられた水及びパン材料を、こね用羽根の回転力により混ねつする製パン工程に於いて、こね開始時こね用羽根の回転力による粉体飛散が落ち着くまでの一定時間こね用羽根を間欠的に回転させた後、こね用羽根を連続して回転させることを特徴とする製パン器に於けるこね用羽根の制御方法。
3 原告は、イ号物件ないしト(2)号物件は、発明6の実施にのみ使用する物であると主張する。
4 被告は、権利6の対象被告物件を、①日本国内で製造の上、日本国内で販売しているのみならず、②日本国内で製造の上、米国所在の者に販売・輸出しており、また、③中国所在の者から購入し、日本を経由することなく、直接米国所在の者に販売している。
【争点】
1 権利6の対象被告物件は、こね開始時こね用羽根の回転力による粉体飛散が落ち着くまでの一定時間こね用羽根を間欠的に回転させているか(間欠的回転)。
2 被告が、中国で購入した権利6の対象被告物件を、直接米国へ販売する行為は、権利6を侵害するか(日本不介在譲渡)。
【争点に関する当事者の主張】
1 争点1(間欠的回転)について
(原告の主張)
(1) 発明6は、モーターへの間欠パルス通電、すなわち、通電のオン・オフを繰り返すという方法を用いることで、変速機等を使用したモーターの速度変速の方法により生じる不都合を解消するとともに、パンケースの外への粉体の飛散防止を実現している(権利6明細書の作用欄参照)。
発明6は、かかる動作におけるこね用羽根の回転を「間欠的に回転」と形容しているのであるから、それは、モーターへの間欠パルス通電によりモーターの作動を間欠的に行い、もってこね用羽根自体の回転速度を、加速減速させることを意味する。
(2) 被告は、こね用羽根が完全に停止しなければ、「間欠的」とはいえないと主張するが、発明6は、粉体飛散防止という発明6の目的を達成するため、こね用羽根をどのように作動させるかを開示した技術であり、こね用羽根が完全に停止しなくともその目的は達成されるから、製パン器のモーターの作動の結果こね用羽根が停止しているかどうかは「間欠的」であるかどうかと関係はない。
(3) 権利6の対象被告物件は、いずれも、スタートキーの操作により直ちに、あるいはタイマー設定時にはスタートキー操作後設定で定まる時間の経過時に(タイマー付きでないロ(2)号、ハ(2)号、ト(2)号を除く)、パンケース8に入れられているイースト、各種材料及び水を、混練羽根16の回転力により混練する製パン工程を開始する製パン器である。
そして、権利6の対象被告物件は、別紙物件目録1ないし7の各三7記載のとおりの構成を具備するから、同物件は、いずれも、発明6の実施にのみ使用される物である。
(被告の主張)
(1) 発明6の「こね用羽根を間欠的に回転させ」とは、次の理由により、こね用羽根が粉体を飛び散らせるような速度による回転と停止とを繰り返すことを意味すると解すべきである。
ア 発明6は、権利6明細書の記載によれば、混ねつに際し粉体が飛散しないようにするためにこね用羽根の速度を減速して行うための種々の不都合に対し、こね用羽根の速度を変えずに、その回転を間欠的にすることによって粉体の飛散をなくすようにして、種々の不都合を解決したものである。
イ 権利6明細書の作用欄には、こね用羽根が回転と停止・休止を繰り返すことが記載されている。
ウ 発明6の出願日前に出願され、発明6の出願後に公開実用新案公報が発行されている実願昭六一―一七〇一〇三号に係る実用新案登録出願(以下「権利6先願」という。)の出願当初の明細書に記載された考案は、発明6の技術的範囲を解釈する際にも斟酌すべきである。
上記明細書には、小麦粉、水等のパン材料を作る材料を収納する容器と、この容器内で回転して前記材料をこね合わせる撹拌翼と、この撹拌翼を回転させる電動機とを備えた調理器において、撹拌初期の一定時間、約0.2秒オン、約1.0秒オフのタイミングで電動機が断続的に運転され、撹拌翼を低速回転させることを特徴とした調理器が記載されている。
したがって、発明6の技術的範囲から、モータへの断続通電によりこね用羽根を低速回転させるものは除外すべきである。
(2) イ号、ロ(1)、ロ(2)号物件について
上記各物件の混練羽根は、混練開始から九〇秒間は、約0.2秒間回転し約二秒間停止するという構成である。そして、このような構成によって混練開始当初(粉体が水と混ざるまでの間)の粉体の飛散を防止するという効果を有する。
しかしながら、混練開始から九〇秒間における右混練羽根の回転は、回転と停止とを交互に繰り返すので、間欠的であるとしても、上記各物件は、この間欠的な回転をモータに対する通電のオン・オフにより実現しており、この構成は、権利6先願の明細書に記載された二番目の実施例と全く同一の構成である。
したがって、上記物件の混練当初の混練羽根の回転が仮に間欠的であるとしても、それらは、発明6の実施にのみ使用される物ではないというべきである。
(3) その他の権利6の対象被告物件について
上記各物件においては、モータへの通電が極く短時間のオン・オフの繰り返しであるため、モータの駆動軸及びこれに結合された混練羽根は慣性で連続的に回転し続け、間欠的な回転を行うことはない。
したがって、上記物件は、いずれも発明6の実施にのみ使用される物ではない。
2 争点2(日本不介在譲渡)について
(原告の主張)
被告が、権利6の対象被告物件を、中国所在の者から購入し、日本を経由することなく、直接米国所在の者に販売している行為が、権利6を侵害しているとみなされることについては、権利2に関して主張したのと同様である。
(被告の主張)
被告が、権利6の対象被告物件を、中国所在の者から購入し、日本を経由することなく、直接米国所在の者に販売している行為が、権利6を侵害しているとみなされないことについては、権利2に関して主張したのと同様である。
【争点に対する判断】
1 争点1(間欠的回転)について
(1) 発明6の「こね開始時こね用羽根の回転力による粉体飛散が落ち着くまでの一定時間こね用羽根を間欠的に回転させ」という要件のうち、「間欠的に回転」が、具体的に何を意味するのかは、特許請求の範囲の記載からは一義的に明確ではない。
権利6明細書(甲6)の作用欄には、「羽根を瞬時回転し粉体がケース外に飛び出る前に停止する様にすると粉体はやや静止の状態に戻る。斯くして粉体が落ち着くまで休止させてから再び羽根を瞬時回転、休止をする動作を数十回繰り返しすると粉体はパンケース外に飛び散ること無く、水と良く融合して糊状化する。」と記載されているので、この記載からすると、「間欠的に回転」に該当するためには、こね用羽根自体が間欠的に回転しなければならないようにも解し得る。
他方、同明細書の発明が解決しようとする問題点、効果欄の記載からすると、発明6の目的は、混ねつ当初に粉体が飛散するのを防止するために、回転羽根の駆動用モーターの回転数を減速して混ねつ速度を遅くする従来技術よりも、寿命、騒音、価格の点で改善しようとするものであることが認められる。また、同明細書の作用欄及び実施例欄の記載によれば、その改善手段として、間欠パルス通電によってこね用羽根を回転させることにより、粉体をパンケース外に飛散させずに混ねつさせることができるようにしたことが認められるから、「間欠的に回転」に該当するためには、こね用羽根の原動力であるモーターを間欠パルス通電によって作動させれば足りるようにも解し得る。
したがって、権利6明細書の記載からも、「間欠的に回転」を一義的に理解することは困難である。
(2) しかしながら、証拠(乙8)によれば、発明6の出願日前に実用新案登録出願され、発明6の出願後に出願公開されたものとして、権利6先願が存在することが認められる。
そして、同証拠によれば、権利6先願の願書に最初に添付した明細書又は図面には、次の記載があることが認められる。
ア 実用新案登録請求の範囲第一項
小麦粉、水等のパンを作る材料を収納する容器9と、この容器9内で回転して前記材料をこね合わせる撹拌翼8と、この撹拌翼8を回転させる電動機4とを備えた調理器において、撹拌初期の一定時間前記撹拌翼8を低速回転させることを特徴とした調理器。
イ 実用新案登録請求の範囲第三項
前記撹拌翼8を低速回転させるための電動機4の断続運転機能を有する制御回路基盤3を有してなる実用新案登録請求の範囲第一項記載の調理器。
ウ 産業上の利用分野
本考案は、撹拌により小麦粉、水等のパンの材料を練りあげる家庭用の調理器に関するものである。
エ 従来の技術
従来、この種の調理器は容器にパンの材料を入れてから電動機を全速回転させるため、材料が分離している撹拌初期においては材料が撹拌翼ではね飛ばされるようなものであった。
オ 考案が解決しようとする問題点
かかる構成のものにあっては撹拌翼ではね飛ばされた材料が容器の内壁に付着し、特に撹拌翼から遠い部分の内壁に付着した材料は練れないまま最後まで残ってしまうという問題があった。
カ 問題点を解決するための手段
本考案は上記問題点を解決するためになされたものであり、攪拌初期の材料が分離している状態の一定時間は攪拌翼を低速回転させるようにしたものである。
キ 作用
このようにすることにより材料の撹拌初期の一定時間は、撹拌翼が低速回転しているので分離している材料は飛散することなく均一に混ざり合うようになり、一定時間経過後は撹拌翼を全速回転させて材料を練りあげる。
ク 実施例
動作の状態を第5図により説明すると、まず、スイッチ23を押してスイッチ入力を“H”にすると撹拌工程が開始される。ゼロクロス検出回路14からの出力パルスをマイコン21でカウントし、第5図に示す如きタイミングでトランジスタ24のON/0FFを制御する。
これによると最初のT3時間はT1時間ON、T2時間OFFのインターバルでトランジスタ24のON、OFFによって電動機4の断続運転によりマイコン21を介して低速回転でゆるやかな撹拌を行ない、時間T3経過後時間T4まではマイコン21を介して電動機4の全速回転で従来通りの撹拌を行なう。
断続運転のタイミングは、T1=約0.2秒、T2=約0.1秒程度である。
(3) 以上の権利6先願の願書に最初に添付した明細書又は図面の記載からすると、そこには、次の構成の考案(以下「権利6先願考案」)が記載されているものと認められる。
「予め容器内に入れられた水及びパン材料を、撹拌翼の回転力によりこね合わせる工程に於いて、回転開始時撹拌翼の回転力による粉体飛散が落ち着くまでの一定時間、電動機を断続運転させることにより撹拌翼を低速回転させた後、電動機を連続運転させることにより撹拌翼を全速回転させることを特徴とする調理器に於ける撹拌翼の制御方法。」
権利6先願考案と発明6とを比較すると、用語の違いを除けば、①権利6先願考案が調理器におけるこね用羽根の制御方法であるのに対し、発明6が製パン器におけるこね用羽根の制御方法であること、②権利6先願考案が回転開始時こね用羽根の回転力による粉体飛散が落ち着くまでの一定時間、電動機を断続運転させることによりこね用羽根を低速回転させているのに対し、発明6がこね開始時こね用羽根の回転力による粉体飛散が落ち着くまでの一定時間こね用羽根を間欠的に回転させている点で相違するものと一応認められる。
しかしながら、上記①については、権利6先願考案がパン材料と水とが入れられることを前提とした調理器であり、発明6の記載自体は製パン器となっているものの、パン材料と水を混ねつした後の、発酵、焼成等は発明の内容とは無関係であることからすると、両者の違いは実質的な違いをもたらさないというべきである。
そうすると、上記②の相違点が実質的な違いをもたらさない場合には、発明6は権利6先願考案と実質的に同一の発明ということとなり、権利6の特許出願時に施行されていた旧特許法一二三条一項一号、二九条の二によって、その特許登録に無効理由が存在することとなってしまう。
したがって、発明6の技術的範囲を解釈するに当たっては、上記②の相違点が実質的な違いをもたらすように解釈する必要があるというべきである。
(4) 以上のことからすると、発明6の「間欠的に回転」とは、こね用羽根自体が間欠的に回転動作をするものと解すべきであり、そのように解することによって、権利6先願考案との抵触を免れることとなる。
(5) イ号、ロ(1)号、ロ(2)号物件について
ア 証拠(甲25の1と2)によれば、権利6の対象被告物件のうち、イ号、ロ(1)号、ロ(2)号物件のこね用羽根は、こね開始から約九〇秒間、それ自体が間欠的に回転動作していることが認められ、こね開始から約九〇秒経過後は連続回転しているものの、その時点でこね用羽根の回転力による粉体飛散は落ち着いているものと認められる。なお、イ号、ロ(1)号、ロ(2)号のこね用羽根自体が間欠的に回転するか否かは、パンケース内に入れられたパン材料、イースト菌、水の混合物の粘度にも左右されると考えられるが、製パンに適した粘度は一定のものと考えられるから、通常の使用方法において、イ号、ロ(1)号、ロ(2)号物件のこね用羽根は、こね開始時こね用羽根の回転力による粉体飛散が落ち着くまでの一定時間、それ自体が間欠的に回転するものと認められる。
したがって、イ号、ロ(1)号、ロ(2)号物件におけるこね用羽根の制御方法は、発明6の「こね開始時こね用羽根の回転力による粉体飛散が落ち着くまでの一定時間こね用羽根を間欠的に回転させ」という要件を充足していると認められる。
よって、イ号、ロ(1)号、ロ(2)号物件は、発明6の実施にのみ使用する物であると認められる。
イ 被告は、イ号、ロ(1)号、ロ(2)号物件は、権利6先願の明細書に記載された二番目の実施例と全く同一の構成であるから、同物件は発明6の実施にのみ使用する物ではないと主張する。
しかし、こね開始時こね用羽根の回転力による粉体飛散が落ち着くまでの一定時間、こね用羽根をどのように制御しているかという点において、イ号、ロ(1)号、ロ(2)号物件は、モータ回路のスイッチを0.2秒間接続、二秒間切断というタイミングで繰返してオン・オフしているのに対し、権利6先願の明細書に記載された二番目の実施例は、トランジスタ24を0.2秒間接続、一秒間切断というタイミングで繰返してオン・オフしている点で異なる上、イ号、ロ(1)号、ロ(2)号物件は、そのような時間によるオン・オフの繰り返しにより、こね用羽根自体が間欠的に回転するのに対し、権利6先願の明細書に記載された二番目の実施例において、こね用羽根自体が間欠的に回転しているか否かは不明である。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(6) その他の権利6の対象被告物件について
ア 本件証拠によっても、その他の権利6の対象被告物件において、「こね開始時こね用羽根の回転力による粉体飛散が落ち着くまでの一定時間こね用羽根を間欠的に回転させ」という要件を充足しているとは認められない。
イ 証拠(甲25の3ないし5)によれば、二号、へ号、ト(1)号物件は、こね開始時から約五秒間、低速回転し、その後、約八五秒間こね用羽根が脈動的に回転していることが認められる。
そして、発明6において、こね用羽根が間欠的に回転するのは、こね開始時からでなければならないことは、特許請求の範囲の記載からして明らかである。また、発明6において、こね用羽根が間欠的に回転するのが、こね開始時からでなければならないことは、発明6が、混ねつ当初、こね用羽根の通常の速度によって、水と分離している小麦粉等の粉体がパンケースの外に飛散してしまうことを防止することを目的の一つとして、「こね開始時こね用羽根の回転力による粉体飛散が落ち着くまでの一定時間こね用羽根を間欠的に回転させ」という手段を具備していることからしても、明らかである(甲6の2欄13行〜3欄32行)。
そうすると、二号、へ号、ト(1)号物件は、少なくとも、こね開始時から約五秒間、こね用羽根が間欠的に回転していないのであるから、同物件が、「こね開始時こね用羽根の回転力による粉体飛散が落ち着くまでの一定時間こね用羽根を間欠的に回転させ」という要件を充足しているとは認められない。
ウ そして、別紙物件目録4、6、7―(1)の各三、7によれば、上記物件が、少なくとも、こね開始時から約五秒間、こね用羽根が間欠的に回転しないのは、それらの物件においては、混練動作開始時に、モータ4の回転について、マイクロコンピュータが、モータ回路のスイッチを、電源周波数の一六サイクルを一ブロックとし、この一六サイクル中複数サイクル間接続、それより長いサイクル間切断というタイミングで繰り返して開閉(オン・オフ)するという制御を行っているからと認められるところ、ハ(1)号、ハ(2)号、ホ号及びト(1)号物件においても、別紙物件目録3―(1)、3―(2)、5及び7―(2)の各三、7記載のとおり、上記制御を行っている。
そうすると、ハ(1)号、ハ(2)号、ホ号及びト(2)号物件においても、少なくとも、こね開始時から約五秒間、こね用羽根は間欠的に回転していないものと推認されるから、同物件も、「こね開始時こね用羽根の回転力による粉体飛散が落ち着くまでの一定時間こね用羽根を間欠的に回転させ」という要件を充足しているとは認められない。
エ したがって、イ号、ロ(1)号、ロ(2)号物件以外の権利6の対象被告物件は、いずれも発明6の実施にのみ使用する物であるとは認められない。
2 争点2(日本不介在譲渡)に関して
権利6は、「製パン器に於けるこね用羽根の制御方法」という方法の特許であり、被告がイ号、ロ(1)号及びロ(2)号物件を製造、販売する行為が、権利6の間接侵害となるかどうかが問題となるのであるから、前記第4【争点に対する判断】2記載のとおり、被告が同物件を米国所在の者に販売する行為は、権利6の間接侵害を構成しないというべきである。
なお、争いのない事実等記載のとおり、被告は、イ号、ロ(1)号及びロ(2)号物件を日本国内で製造の上、米国所在の者に販売・輸出もしているが、この行為も同様に、権利6の間接侵害を構成しないというべきである。
第7 権利7に係る請求について
【争いのない事実等】
1 原告は次の実用新案権(以下「権利7」という。)を有している。
考案の名称 製パン機におけるこね容器の取手構造
出願日 平成三年三月四日
(実願平三―一〇九八六号)
公告日 平成八年一月二四日
(実公平八―一七一〇号)
登録日 平成九年一一月二八日
登録番号 第二一四九一八九号
2 権利7の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「権利7明細書」という。)記載の実用新案登録請求の範囲は次のとおりである(以下この考案を「考案7」という。)。
製パン機本体に対してバヨネット結合で取外し自在に結合されるこね容器において、その上端フランジ部の一部を略山形に切起こして空所を形成し、該切起こし部は所定幅に成形すると共に、前記空所に取手の両端を挿通係合させたことを特徴とする製パン機におけるこね容器の取手構造。
3 被告は、遅くとも平成八年一月二四日から同年五月三一日までに、考案7の技術的範囲に属する製パン機におけるこね容器の取手構造を具備したA号物件を販売した(弁論の全趣旨)。
【争点】
権利7に基づく請求は権利濫用か。
【争点に関する当事者の主張】
(被告の主張)
原告は、権利7の実用新案出願公告後である平成八年一二月三日、実用新案登録請求の範囲を補正し(以下「本件補正」という。)、「バヨネット結合で結合させる」という構成と、「こね容器の上端フランジ部の切り起こし部を所定幅に成形する」という構成を追加した。
しかし、上記構成の追加によって、補正後の考案は単に製造の手間や部品コストの削減を図るのみならず、取手をもってこね容器(パン容器)を回転させることにより製パン機本体への着脱が可能になるという目的(及び作用効果)が追加されているから、この補正は、考案を実質的に変更するものであり、出願公告後の補正として許される限度を超えたものである。
そうすると、本件補正は不適法であり、権利7の実用新案登録請求の範囲は、出願公告時のものとなる。
しかるに、この出願公告時の実用新案登録請求の範囲の内容は、出願前公知の考案から極めて容易に考案できるものであり、進歩性を欠如する考案である。
したがって、権利7の実用新案登録は無効であることが明白であるから、権利7に基づく請求は権利濫用である。
(原告の主張)
争う。
【争点に対する判断】
1 被告の主張は、権利7の実用新案登録請求の範囲が、出願公告時のものとなることを前提に、進歩性を欠如すると主張するが、進歩性を欠如するとする理由が抽象的であり、権利7の実用新案登録出願時における公知の考案等を具体的に提示しないから、被告の主張を認めることはできない。
2(1) なお、被告は、本件補正は権利7の出願公告時における権利7明細書に記載された考案を実質的に変更するものであり、要旨変更に該当すると主張するので、一応その点についても検討する。
(2) 証拠(甲7)によれば、権利7の出願公告時の実用新案登録請求の範囲は、次のとおりであったことが認められる。
「製パン機本体に対して取外し自在になったこね容器において、その上端フランジ部の一部を略山形に切起こして空所を形成すると共に、該空所に取手の両端を挿通係合させたことを特徴とする製パン機におけるこね容器の取手構造。」
したがって、権利7の実用新案登録請求の範囲は、本件補正により、「バヨネット結合で…結合される」という構成と、「該切起こし部は所定幅に成形する」という構成が追加されている。
また、証拠(甲7、17)によれば、本件補正により、権利7明細書の「実施例」欄には、「また、切起こし部15の幅は、取手17を持ってこね容器11を回転し、製パン機本体とのバヨネット結合を嵌めたり、外したりしたときでも、加わる力によって破損することがないように、所定の幅に設定する。」との記載が追加され、「考案の効果」欄には、「また、ユーザは、取手を持ってこね容器を回転する操作により、こね容器の製パン機本体への着脱を行うことができる。」という記載が追加されていることが認められる。
(3) ところで、権利7の出願公告時における権利7明細書の実施例欄には、次の記載があったことが認められる。
ア こね容器の本体11は図1に示したように、上部の開口縁をフランジ部12に形成したアルミ製円筒であり、この本体11の下面に前記収納室九内への取付け用係止部13がリベット固定してある。この係止部13は収納室9側の取付部(図示せず)にバヨネット結合する(【〇〇〇八】)。
イ そして、上記フランジ部12を含み、係止部13を除いた本体の略円筒形状はプレス成型により一体成型されるが、フランジ部12の一部には次に詳述する略山形の切起こし部15が形成され、この切起こし部15によって形成される空所16に逆U字ワイヤー状の取手17が取付けられるようになっている。
すなわち、環状フランジ部12のうちの幅広部12a(この実施例では約一〇ミリ)に、その幅のほぼ半分を占める程度の間隔(約五ミリ)で二本の平行な切込み18が形成され、この切込み18間を下方よりプレスして山形に隆起させてある(【〇〇〇九】、【〇〇一〇】)。
ウ 取手17はそのL字状屈曲部17aが上記空所16にちょうど進入しうる程度の太さのばね鋼材からなり、適度な弾性と剛性を有する。
適度な剛性とは、この取手17を立てた図1示の状態で取手17を手で把持して、こね容器6を時計まわり、反時計まわりのいずれかへ回転させれば、前記係止部13が収納室9内の係止部にバヨネット嵌合しうる、あるいはその嵌合が外れうる程度の剛性である。つまり、こね容器6の着脱を行うために、この取手17を持って力を加えた程度では容易に塑性変形しない程度の弾性と剛性を有するばね鋼材である(【〇〇一一】、【〇〇一二】)。
エ こね容器本体11に取付けられた取手17はそのばね性によって、L字状屈曲部17aの空所16内への突入が外れることがなく、前述の通り前記収納室9に入れた状態で使用者が取手17をひねってこね容器6の製パン機本体7への係合を係脱することができる(【〇〇一七】)。
(4) 前記(3)の実施例の記載からすると、権利7の出願公告時における権利7明細書にも、「製パン器本体に対してバヨネット結合で取外し自在に結合されるこね容器」及び「該切起こし部は所定幅に成形する」ことが記載されていることが認められ、本件補正による実用新案登録請求の範囲の訂正は、公告時におけるそれを減縮するものであると認められる。
そして、本件補正により「考案の効果」欄に追加された「ユーザは、取手を持ってこね容器を回転する操作により、こね容器の製パン機本体への着脱を行うことができる。」という記載も、前記(3)ウ、エに記載されている上、その構成上自明の効果であると認められる。
なお、本件補正により実施例欄に追加された「また、切起こし部15の幅は、取手17を持ってこね容器11を回転し、製パン機本体とのバヨネット結合を嵌めたり、外したりしたときでも、加わる力によって破損することがないように、所定の幅に設定する。」との記載については、出願公告時の権利7明細書には明示的に記載されていないが、切り起こし部15が所定幅に形成されることについては、前記(3)イに記載されているところであり、その場合、通常の使用状況下で切起こし部15が破損することがない程度の所定の幅を設けることは、自明のことである。
(5) したがって、被告の「本件補正は権利7の出願公告時における権利7明細書に記載された考案を実質的に変更するものであり、要旨変更に該当する」との主張は採用することができない。
第8 損害額について
【当事者の主張】
(原告の主張)
1(1) 権利1ないし権利7のうち、最も早く損害賠償請求権が発生するのは、平成四年四月二日に出願公告された権利5であるが、被告は、その翌日以降、各権利の対象被告物件を製造、販売することにより、各権利の仮保護の権利又は各権利を侵害した。
(2) 実施料相当額を求めるに当たって、当該物件の総売上高に対し乗ずべき実施料率は、①権利1を侵害する物については五%、②権利2を侵害する物については五%、③権利4又は権利5のいずれか一方を侵害する物については1.5%、双方を侵害する物については二%、④権利6を侵害する物については二%、⑤権利7を侵害する物については一%とすべきである。ただし、複数の権利を侵害する物件につき、実施料率が五%を超える場合でも、当業界の慣行を考慮して五%を上限とする。
(3) 被告が、平成四年四月三日以降、イ号ないしチ号及びA号物件を製造販売して得た売上額は、合計一〇〇億二九四八万一四〇円であるところ、それに各権利の仮保護の権利の発生時期と、各権利の実施料率を勘案すると、実施料相当額は、二億二九二六万六五〇五円となる。
2 侵害論に関する裁判所の判断を前提とした損害額について
(1) 被告は、権利2の仮保護の開始の日(平成七年七月一二日)より後である平成七年八月一日以降、権利2の対象被告物件を国内で製造、販売することにより、権利2の仮保護の権利又は権利2を侵害した。
また、被告は、権利6の仮保護の開始の日(平成七年八月三〇日)より後である平成七年九月一日以降、権利6の対象被告物件を国内で販売することにより、権利6の仮保護の権利又は権利6を侵害した。
右物件中の被告による国内販売の数量及び当時の販売単価は、別表1記載のとおりである(なお、表中該当期間に国内販売のなかった物件については記載されていない)。
被告によるこれらの販売に対する実施料相当額(売上高の五パーセント)は、一億六一九四万八五二三円である。
(2) 被告は、権利7の仮保護の開始の日(平成八年一月二四日)より後である平成八年二月一日以降、A号物件を製造、販売することにより、権利7の仮保護の権利又は権利7を侵害した。
被告による上記物件の販売台数及び当時の販売単価は、別表2記載のとおりである。
被告によるこれらの販売に対する実施料相当額(販売額の一パーセント)は、五一六万〇〇二五円である。
(被告の主張)
1 別表1のうち、「物件」、「機種コード」、「製品コード」、「単価」、「数量」及び「販売額」欄の記載並びに別表2のうち、「物件」、「機種コード」、「製品コード」、「単価」、「販売台数」、「販売金額」欄の記載は認める。
2 権利2の実施料率について
権利2の出願公告時における特許請求の範囲は、投入の順序は要件ではなく、水とイーストの間に、水との接触を避けるようにパン材料を介在させることが要件であったが、異議申立に対応するため、特許請求の範囲を補正し、水、パン材料、イーストという順序に投入することを要件としたのである。したがって、右以外の順序で投入する方法は、権利2の範囲に属さないことは明らかである。
そうすると、水、パン材料、イーストという投入順序さえ避ければ、あるいは、この投入順序はいくつかの投入順序のうちの一つの例示にすぎないものとしておけば、権利2は極めて容易に回避することができるのである。なお、被告が、権利2の対象被告物件の取扱説明書において、水、パン材料、イーストという投入順序を記載したのは、水を先に投入する方が、パン材料を先に投入するよりも、パン材料(特に小麦粉)がパン容器に残りにくい(特にパン容器の隅の小麦粉は、先に水を入れた方が、先に小麦粉を入れた場合よりも、攪拌後に残る度合いが少ない)という権利2とは異なる作用効果を目的としたものである。
そして、権利2の対象被告物件における基本的な使用形態はタイマーを用いず直ちに製パンを行うものであることや、権利2は無効となる可能性があることを考慮すれば、権利2の価値は極めて低く、その実施料率は低率に抑えられるべきである。
3 権利6の実施料率について
権利6は、①製パン器の本質的部分ではなく、混練羽根の混練開始当初の回転制御という極めて限定された部分に関する権利にすぎないこと、②イ号、ロ(1)号及びロ(2)号物件における混練羽根の間欠回転は、先願考案の発明を実施した結果として間欠回転が実現しているにすぎないこと、③権利6は無効となる可能性があることを考慮すれば、権利6の価値は極めて低く、その実施料率は低率に抑えられるべきである。
4 権利7の実施料相当額について
権利7の実施料相当額は、権利7を回避するために要する費用を上回ることは常識上あり得ないというべきところ、被告が権利7を回避するために要した変更費用は、パン容器一個当たり一〇円未満である。
そして、権利7は無効となる可能性があることを考慮すれば、権利7の実施料相当額は、製品一個当たり一〇円未満とみるのが相当である。
【争点に対する判断】
1 これまで判示したことから明らかなように、被告が、権利2の出願公告日である平成七年七月一二日以降、権利2の対象被告物件(イ号、ロ(1)号、ハ(1)号、ニないしト(1)号及びチ号物件)を、日本国内で販売したことは、権利2の仮保護の権利を侵害し(ただし、権利2の登録日である平成九年一二月一九日以降は権利2を侵害)、権利6の出願公告日である平成七年八月三〇日以降、権利6の対象被告物件のうちイ号、ロ(1)号、ロ(2)号物件を、日本国内で販売したことは、権利6の仮保護の権利を侵害し(ただし、権利6の登録日である平成九年七月二五日以降は権利6を侵害)、権利7の出願公告日である平成八年一月二四日以降、A号物件を販売したことは、権利7の仮保護の権利を侵害したこととなる(ただし、権利7の登録日である平成九年一一月二八日以降は権利7を侵害)。
2 被告の各物件の売上
被告が、上記各権利を侵害することになる期間(ただし、原告は平成一二年三月三一日までの侵害に係る損害賠償を請求している。)、上記各物件の販売数額が、別表1の「数量」及び「販売額」欄の記載並びに別表2の「販売台数」欄及び「販売金額」欄記載のとおりであることについては、当事者間に争いがない。
ところで、弁論の全趣旨によれば、別表2のA号物件の販売台数及び販売金額には、被告が韓国で生産されたA号物件を、日本を経由することなく、アメリカ所在の者に販売した販売台数及び販売金額が含まれていると認められる(別表2の機種コード欄「HB―710R」、*2参照。)。そして、原告は、このような販売についても、登録実用新案の「実施」としての「譲渡」に当たるから、実用新案権侵害を構成すると主張する趣旨であると解される。
しかしながら、登録実用新案の「実施」である「譲渡」といえるためには、当該譲渡の対象物が日本国内に存在していなければならないと解するのが相当である。なぜなら、登録実用新案は、物品の形状、構造又は組合せに係る、自然法則を利用した技術的思想の創作であるから、その技術的思想は、すべからく具体的に存在する物品として具現するものであるところ、日本の実用新案権は日本国内においてしか効力を有さないから、当該物品が日本国外に存在する場合は、そこに具現された技術思想に対しては、日本の実用新案権の支配力は及ばないからである。また、実用新案法二条三項は、「実施」を「考案に係る物品」を譲渡すること等と定義しているが、日本の実用新案権の効力が日本国内にしか及ばない以上、実用新案登録を受けている「考案に係る物品」も日本国内に存在するものに限られると解すべきだからである。
したがって、権利7を侵害したA号物件の販売台数及び販売金額は、別表2記載のA号物件の販売台数及び販売金額から、被告が韓国で生産されたA号物件を、日本を経由することなく、アメリカ所在の者に販売したA号物件の販売台数及び販売金額を控除すべきである。
以上より、被告は、①平成七年八月一日から平成一二年三月三一日まで、権利2の対象被告物件を販売したことにより、合計三二億三八九七万〇四五〇円の売上を得、②平成七年九月一日から平成一二年三月三一日まで、権利6の対象被告物件を販売したことにより、合計一億〇七八二万円の売上を得、③平成八年二月一日から同年五月一三日までA号物件を販売したことにより、四億九七六六万二四七二円の売上を得たと認められる。
3 売上に乗ずべき実施料率について
(1) 発明2について
発明2は、タイマー制御による製パン工程における、水、パン材料、イースト菌の投入方法に関する発明であるところ、①発明2により、タイマー制御の場合でも、水、パン材料、イースト菌を一つの容器に投入しておくことができることになるので、実用的な発明ということができるが、②発明2の投入順序以外の投入順序によっても、タイマー制御の場合でも、水、パン料、イースト菌を一つの容器に投入しておくことはでき、現にそのような技術も存在すること(乙16)、③ただし、発明2の方法は、混練により小麦粉が容器の縁に残るということが少ないという、他の方法よりも優れた点があること(権利2明細書に記載はないが、被告が自認するところである。)、その他本件で現れた一切の事情を勘酌すれば、権利2の対象被告物件の売上高に乗ずべき発明2の実施料率は、二パーセントとみるのが相当である。
(2) 発明6について
発明6は、こね開始からの初期段階におけるこね用羽根の制御方法に関する発明であるが、発明6が奏する効果は、権利6先願考案でも達成できており、発明6は、権利6先願考案と同程度の実用的価値を有する技術を提供したにすぎないものと考えられること、その他本件で現れた一切の事情を勘酌すれば、権利6の対象被告物件の売上高に乗ずべき発明6の実施料率は、一パーセントとみるのが相当である。
(3) 考案7について
考案7は、パン容器の取手の構造に関する実用新案であるから、製パン器全体に対する寄与率は、一〇パーセントとみるのが相当であること、その他、本件で現れた一切の事情を斟酌すれば、A号物件の売上高に乗ずべき考案7の実施料率は、0.1パーセントとみるのが相当である。
(4) なお、損害額算定の基礎となる、権利2の対象被告物件、権利6の対象被告物件及びA号物件の各売上高には、部分的に同一時期の同一物件の売上が重複して計上されているが、本件の場合、発明2、6及び考案7は、互いに目的・手段・効果が異なるものであることから、複数の権利を侵害する物件の売上高に乗ずべき実施料率は、各発明又は考案の実施料率を合計して得られる率とみるのが相当である。
4 損害額のまとめ
(1) 以上より、被告が権利2を侵害したことにより原告に対して支払うべき実施料相当額は、六四七七万九四〇九円となり、権利6を侵害したことにより原告に対して支払うべき実施料相当額は、一〇七万八二〇〇円となり、権利7を侵害したことにより支払うべき実施料相当額は、四九万七六六二円となり、その合計は、六六三五万五二七一円となる。
なお、原告は、付帯請求として、本件訴状送達の日の翌日である平成八年一二月六日からの民法所定の遅延損害金の支払を求めているが、発明2及び6の実施料相当額の算定根拠となった売上高には、同日を超える期間の売上高も含まれている。そして、発明2及び6に関する各年度毎の実施料相当額は、別表3記載のとおりである。
したがって、原告の付帯請求は、上記実施料相当合計額のうち七七一万二二八四円(別表3の①と考案7の実施料相当額の合計)については平成八年一二月六日から、一八二一万八〇七一円(別表3の②)については平成九年三月三一日から、一二七六万七七六三円(別表3の③)については平成一〇年三月三一日から、一四五三万三九七六円(別表3の④)については平成一一年三月三一日から、一三一二万三一七七円(別表3の⑤)については平成一二年三月三一日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があることになる(本件証拠によっても、平成八年四月一日から平成九年三月三一日までの売上のうち、いくらが平成八年一二月六日までの売上か不明であるため、その期間の売上に基づく実施料相当額(別表3の②)の遅延損害金の始期は、平成九年三月三一日とする。)。
第9 まとめ
被告が、権利2の対象被告物件(イ号、ロ(1)号、ハ(1)号、ニないしト(1)号及びチ号物件)及び権利6の対象被告物件(イ号、ロ(1)号及びロ(2)号物件)を日本国内で販売するために製造し、又は日本国内向けに販売すること、日本国内で販売するために輸入することは、権利2又は権利6を侵害する。
なお、被告が、現に、上記侵害を構成する物を、現に外国から輸入しているということを認めるに足る証拠はないが、弁論の全趣旨によれば、被告は、自社ブランドの製パン器を中国や韓国で生産させていることが認められるから、今後、上記侵害を構成する物を輸入するおそれはあるというべきである。
また、別表1のとおり、損害賠償の対象期間中、一部の物件(イ号、ロ(2)号及びハ(1)号物件)は、日本国内向けに販売されていないが、弁論の全趣旨によれば、被告は、当該物件を、海外で販売していると認められるから、なお、日本国内で販売するために製造し、日本国内向けに販売するおそれはある走いうべきである。ただし、廃棄請求は、現に、日本国内で販売するために製造し、又は日本国内向けに販売しているロ(1)号、ニ号、ホ号、へ号、ト(1)号、チ号物件に限るのが相当である。
他方、原告は、A号物件の製造、販売、輸入の差止めを求めているが、弁論の全趣旨によれば、被告は、平成八年五月九日以降、A号物件を生産しておらず、現在その在庫もないと認められるから、同物件の製造、販売等の差止請求の必要性はないというべきである。
以上より、原告の本件差止請求のうち、イ号ないしハ(1)号、ニないしト(1)号及びチ号物件の、①日本国内で販売するための製造、②日本国内で販売するための輸入、③日本国内向けの販売の差止めを求める請求は理由があり、その余は理由がないことになる。
また、原告の本件廃棄請求のうち、日本国内で販売するために製造されたロ(1)号、ニないしト(1)号及びチ号物件の廃棄請求は理由があり、その余は理由がないことになる。
そして、原告の本件損害賠償請求については、前述のとおりである。
よって、主文のとおり判決する(主文一、二項については仮執行宣言を付さないこととする。)。
別紙物件目録1(イ号物件)
被告製造販売に係るHB10シリーズ(HB―12WR、HB―12WM、HB―12WT、HB―10W、HB―10P)の製パン器
一 図面の説明
第1図は、上記製パン器の一部を破断して示す正面図である。
第2図は、上記製パン器の平面図である。
二 符号の説明
1 ケーシング
3 オーブンケース
4 モータ
6 操作パネル
8 パンケース
11 ヒータ
13 回転軸
16 混練羽根
三 構造の説明
1 パンケース8内にイースト、各種材料及び水を入れて使用する物であり、これらに対する混練(混ねつ)発酵及び焼成の工程が自動化されており、
2 ケーシングー内にはモータ4によって回転駆動される縦姿勢の回転軸13が備えられており、右回転軸の上端には、混練羽根16が着脱自在に取り付けられており、
3 ケーシング1表面に設けられた操作パネル6は、製パン時間等を表示する表示パネルと、予約タイマー設定用のタイマーキーと、製パン動作開始を指示するスタートキーとを備え、
4 パンケース8はイースト、各種材料及び水の全てを収納し、その状態でパン材料の混練、発酵及び焼成が行われ、
また、ケーシング1内にタイマー機能を有するマイクロコンピュータを備え、これにより混練、発酵および焼成の工程の時間制御が行われ、
5 オーブンケース3の側面に取り付けられた温度センサが接続されているマイクロコンピュータの制御により、スタートキー操作時点において温度センサが摂氏三八度以上を検出した場合には表示パネルにE:01を表示し、また、動作開始後に温度センサが摂氏六〇度以上を検出した場合には表示パネルにE:08を表示し、
6 オーブンケース3の側面に取り付けられた温度センサが接続されているマイクロコンピュータの制御により、スタートキー操作時点において温度センサが摂氏三八度以上を検出した場合には製パン動作を開始させず、また、動作開始後に温度センサが摂氏六〇度以上を検出した場合には製パン動作を中止し、
7 スタートキーの操作により直ちに、あるいはタイマー設定時にはスタートキー操作後、設定で定まる時間の経過時に、パンケース8に入れられているイースト、各種材料及び水を、混練羽根16の回転力により混練する製パン工程を開始する。この混練動作開始時には、モータ4の回転について、マイクロコンピュータは、モータ回路のスイッチを、0.2秒間接続、二秒間切断というタイミングで繰り返して開閉(オン・オフ)するという制御を行うが、この制御は九〇秒間継続し、九〇秒経過後は常に接続状態とする。
別紙
物権目録2〜8及びA<省略>
図1、2<省略>
別表1〜3<省略>